冷たい風が吹き荒れる2025年の師走、イングランド・フットボール界の深部で、ピッチ上の試合結果よりも熱く、そして危険な火種が燻り始めた。
1月の移籍市場解禁まで1ヶ月を切った今、各クラブのスポーツディレクターたちは水面下で激しい駆け引きを繰り広げているが、その中心人物として浮上したのは、かつてアーセナルでその才能と未熟さを全世界に晒し、その後イタリアの地で戦術的な怪物へと変貌を遂げたマテオ・ゲンドゥージだ。
セリエAのラツィオで中盤の支配者として君臨するこのフランス人が、再びプレミアリーグの芝を踏む可能性が出てきた。しかも、その移籍先候補として挙がっている名前が、英国北東部における宿命のライバル関係を刺激し、この冬のマーケットを混沌の渦へと叩き込もうとしている。
ローマの空気を支配した男、その進化と変わらぬ狂気
マテオ・ゲンドゥージというフットボールプレイヤーを語る際、かつての「問題児」というレッテルを貼る者は、もはや時計の針が止まっていると断言していい。ラツィオの青きユニフォームを纏う彼は、カルチョの緻密な戦術体系の中で揉まれ、自身のあふれ出るエネルギーを効率的にピッチへ還元する術を完全に体得した。
中盤の底からボールを運び出す推進力、相手の攻撃の芽を摘む鋭い読み、そして何より90分間絶え間なくピッチを走り回る驚異的なスタミナ。これらは今や、ラツィオにとって欠かせない心臓部となっている。
しかし、彼が単に「上手い選手」になったわけではない点が、我々を惹きつけてやまない理由。彼のプレーの根底には、依然として消えることのない炎が燃え盛っている。審判の判定に食い下がり、味方を怒鳴りつけ、ゴールが決まれば誰よりも激しく咆哮する。
その姿は、行儀の良い優等生が増えた現代フットボールにおいて、稀有な野性味を感じさせる。イタリアでの日々は彼に戦術的な規律を植え付けたが、その魂までは飼いならせなかった。むしろ、戦術眼という武器を手に入れた野獣は、以前よりも遥かに厄介で、対戦相手にとって脅威的な存在へと進化したのだ。
タイン・ウェアの冷戦が熱戦へ、北東部を揺るがす獲得レースの行方
このニュースが真に衝撃的である理由は、獲得レースの構図にある。豊富なオイルマネーを背景にプレミアリーグの上位常連となりつつあるニューカッスル・ユナイテッドが関心を示すのは理解できる。彼らは常に中盤の強度を高められる即戦力を求めており、エディ・ハウ監督の志向するハードワークと切り替えの速いフットボールに、現在のゲンドゥージは完璧にマッチするピースだ。
だが、ここにサンダーランドの名前が並ぶことが、事態を劇的に面白くする。ブラック・キャッツは、長年の苦難を乗り越え、かつての威光を取り戻そうと必死にもがいている。
英『TEAMtalk』が報じたところによれば、サンダーランドはニューカッスル、さらにもう一つのプレミアリーグクラブと競合する形で、ゲンドゥージ獲得に名乗りを上げている。これは、彼らがピッチ外の戦いにおいても宿敵ニューカッスルに引けを取らない野心を持っているという、強烈な意思表示。
もしサンダーランドが、チャンピオンズリーグ出場権を争うようなクラブを押しのけてゲンドゥージを獲得できたなら、それはクラブの歴史における転換点となる。スタジアム・オブ・ライトに詰めかける情熱的なジョーディーたちにとって、宿敵が欲しがるスター選手を奪い取ることは、ダービーマッチでの勝利にも匹敵する快感をもたらすはず。
一方で、ニューカッスルにとっても負けられない戦いだ。資金力と現在の競技力で勝る自分たちが、近隣のライバルにターゲットをさらわれるなどあってはならない失態。サンドロ・トナーリやブルーノ・ギマランイスといったワールドクラスのMF陣に割って入る、あるいは彼らとローテーションを組める実力者として、ゲンドゥージ以上の適任者は市場を見渡してもそう多くはない。
さらに、もう一つのプレミアクラブも参戦しているという情報は、交渉における移籍金の高騰を招く要因となるが、それでも獲得に動く価値が彼にはある。
2025-26シーズンの後半戦、その激しさは増すばかりだ。降格圏からの脱出、あるいは欧州カップ戦への出場権獲得。それぞれの目標に向かって突き進むクラブにとって、1月の補強は命運を分ける。
マテオ・ゲンドゥージという、劇薬にも特効薬にもなり得る男を巡る争奪戦は、冬の寒さを吹き飛ばすほどの熱気を帯びている。タイン川とウェア川、二つの川のほとりで繰り広げられるこの綱引きは、契約書にサインがなされるその瞬間まで、我々の目を釘付けにするだろう。
個人的な見解
マテオ・ゲンドゥージのプレミアリーグ復帰、それも北東部のクラブへの移籍というシナリオは、その両方を完璧に満たす極上のエンターテインメントになり得る。
正直に言えば、彼がアーセナルを去ったとき、これほど早く、これほど逞しくなって戻ってくると予想した人間は少なかったはず。だが彼は、イタリアでの厳しい生存競争を生き抜き、自らの価値を証明してみせた。その反骨心こそが、彼の最大の武器であり魅力。
特に私が心を躍らせているのは、サンダーランドが本気でこのレースに参加しているという点。客観的な戦力や資金力を見ればニューカッスルに分があるのは明白だが、もしゲンドゥージが「完成されたチームの歯車」ではなく、「古豪復活の英雄」としての道を選ぶなら、それは現代フットボールが失いかけている物語性を強烈に喚起する。
彼のようなエモーショナルな選手は、理路整然としたプロジェクトよりも、情熱と狂気が渦巻く場所でこそ輝く。どちらのユニフォームを着るにせよ、彼がイングランドのピッチに立ち、髪を振り乱してボールを追う姿を再び見られるのであれば、一人のフットボールファンとしてこれ以上の喜びはない。この冬、北東部から目が離せない。
