2025年も残すところあと1ヶ月。目前に迫る1月の移籍市場は、ブラジル人FWリシャルリソンにとって、キャリアの分岐点となる可能性が高い。そのプレースタイル同様、常に賛否両論を巻き起こしてきたブラジル代表FWの去就が、かつてないほど不透明さを増している。
スパーズ首脳陣は、この冬の移籍マーケットにおける彼へのスタンスを明確にした。レンタルでの放出は認めない。彼らが求めているのは、一時的な人員整理ではなく、完全なる決別とそれに伴う資金回収である。
「レンタルお断り」のスパーズが描く冷徹な出口戦略
英『Team Talk』が伝えた最新情報は、トッテナムの確固たる意志を浮き彫りにした。古巣エヴァートンが獲得に関心を寄せているとの報道が飛び交う中、スパーズ側はレンタル移籍の可能性を即座に遮断した。
クラブにとって、高給取りのリシャルリソンを単に他クラブへ貸し出すだけでは、根本的なスカッドの刷新にはつながらない。PSR(収益性と持続可能性に関する規則)の遵守が叫ばれる昨今のプレミアリーグにおいて、必要なのは帳簿上の利益を確定させ、新たな戦力補強へ投資するための現金だ。
2022年の夏、巨額の移籍金でエヴァートンから鳴り物入りで加入して以来、リシャルリソンが残した数字は、ファンの期待値と釣り合っているとは言い難い。これまでの在籍期間で記録した全公式戦でのゴール関与数は「38」。
決して恥ずべき数字ではないが、6000万ポンド級のストライカーに求められる支配的なパフォーマンスとは程遠い。ピッチ上での闘争心や守備への献身性は誰もが認めるところだが、肝心のゴール前での決定力不足や、不要なファウルでリズムを崩す悪癖が、常に彼の評価を二分してきた。
今シーズンも公式戦で6ゴールを挙げているものの、その地位は盤石どころか、砂上の楼閣のように脆い。トッテナムは1月の市場で新たなストライカーとウィンガーの獲得を画策しており、そのためには既存戦力の売却が不可欠。
リシャルリソンはその筆頭候補としてリストアップされている。エヴァートンへの帰還は、選手本人にとっても魅力的なシナリオに映るだろう。グディソン・パークのサポーターは今でも彼を愛している。
だが、マージーサイドのクラブがトッテナムを納得させるだけの移籍金を用意できるかは全くの別問題だ。エヴァートンの慢性的な財政難を考慮すれば、完全移籍でのオファー提示は高いハードルとなる。
ここで不気味な存在感を放つのが、サウジアラビアのプロリーグ。豊富な資金力を背景に、欧州のトップレベルで実績のあるブラジル人選手をターゲットにし続けている彼らにとって、リシャルリソンは理想的な獲物といえる。
また、母国ブラジルのクラブも彼の動向に目を光らせている。トッテナムとしては、感情的な「古巣復帰」のストーリーよりも、最も高額な小切手を切る相手と握手をする準備ができている。
クラブの上層部は、この冬にリシャルリソンの売却益を確保し、即座に「次なる矢」を放つための原資に換えるつもり。レンタル移籍という選択肢を排除したことは、退路を断ってでも刷新を推し進めるという強い決意の表れである。
トーマス・フランクの戦術盤に「背番号9」の居場所はあるか
リシャルリソンを窮地に追い込んでいるのは、クラブの財政事情だけではない。ピッチ上の力学、すなわちトーマス・フランク監督との戦術的なミスマッチが深刻化している。
現在、スパーズを率いるデンマーク人指揮官は、ブレントフォード時代から得意としてきた「2トップ」のシステムを頻繁に採用している。前線に2枚のストライカーを並べるこの布陣は、一見するとリシャルリソンにとって好機に見える。しかし、現実は皮肉な結果をもたらした。
彼の前に立ちはだかるのは、パリ・サンジェルマンからローンで加入し、水を得た魚のように躍動するランダル・コロ・ムアニ。フランス代表のスピードスターは、フランク監督が求める「縦への推進力」と「相手守備陣を切り裂く突破力」を体現。
さらに、現在は負傷離脱中とはいえ、ドミニク・ソランケという絶対的な柱も控えている。ソランケのポストプレーとリンクマンとしての能力は、チームの攻撃を円滑にするための生命線だ。
フランク監督が描く攻撃陣において、リシャルリソンの優先順位は低下の一途をたどっている。今シーズン、彼がスタメンに名を連ねているのは、ソランケの負傷やコロ・ムアニのコンディション調整といった外部要因に助けられている側面が強い。
監督が求めているのは、単に前線で体を張る選手ではなく、より戦術的に洗練され、かつ確実にネットを揺らせるフィニッシャー。リシャルリソンの持つ「泥臭さ」は貴重だが、それが戦術的な規律や決定力とセットでなければ、トップレベルのポジション争いでは生き残れない。
ソランケが怪我から復帰した瞬間、リシャルリソンの居場所はベンチ、あるいはスタンドへと追いやられる危険性が極めて高い。フランク監督は、コロ・ムアニとソランケの共存、あるいは新たなターゲットの獲得を視野に入れており、そこにリシャルリソンの名前が書き込まれている保証はどこにもない。
1月の移籍市場が開くと同時に、トッテナムはリシャルリソンの「値札」に見合うオファーが届くのを待つことになる。それがエヴァートンであれ、中東のクラブであれ、重要なのはトッテナムの要求額を満たすことだけだ。
もし適切なオファーが届かなければ、飼い殺し覚悟で残留させるのか、それとも方針転換を余儀なくされるのか。スパーズの冬は、ピッチ外の駆け引きで一層熱くなる。
個人的な見解
リシャルリソンという選手を見ていると、常に「もどかしさ」がつきまとう。彼がピッチで見せる情熱、あふれ出る闘争心は、現代サッカーにおいて稀有な魅力だ。しかし、ストライカーとしての冷徹さが欠けている点もまた、否定できない事実である。
トッテナムが彼に見切りをつけ、完全移籍での売却にこだわっている判断は、クラブ経営の視点から見れば極めて合理的だ。年齢的にも市場価値が残っている今が、「売り時」であることに疑いの余地はない。
特に、ランダル・コロ・ムアニのような、より現代的でスピードのあるアタッカーがチームにフィットしている現状を見れば、リシャルリソンへの依存度はかつてないほど低くなっている。
問題は買い手の存在。エヴァートンへの復帰は美しい物語だが、ビジネスとしては成立しにくい。彼らの財布の紐は固く、トッテナムが望むような移籍金を捻出できる可能性は極めて低い。
もしトッテナムが強気の姿勢を崩さず、結果としてリシャルリソンが残留することになれば、それは最悪の結末を招く恐れがある。モチベーションを失った高給取りの選手を抱えることは、ロッカールームの健全性を損なうリスク要因になり得るからだ。
私個人としては、トッテナムはこの冬、多少の損を出してでもリシャルリソンを放出すべきだと考える。
トーマス・フランクの戦術に完全に適応できていない選手を無理に留めるよりも、その資金で中盤や最終ライン、あるいは監督の好みに合った若いウィンガーを補強する方が、シーズンの最終盤に向けて有益になる。
リシャルリソンにとっても、自分を中心に据えてくれるクラブへ移ることは、キャリアの再生において不可欠だろう。両者の関係は、もはや潮時を迎えている。別々の道を歩むことこそが、互いにとっての最適解になるはずだ。
