冬の訪れと共に、ロンドン・スタジアムには冷たい風が吹き荒れている。それはテムズ川から流れ込む寒気だけの話ではない。プレミアリーグの順位表において、ウエストハム・ユナイテッドの名は17位という屈辱的な位置に刻まれている。
この悪夢のような現実から目を背けることは許されない。グレアム・ポッター体制の崩壊を経て、9月末に指揮権を引き継いだヌーノ・エスピリト・サントだが、直面しているのはゴールという結果に見放されたチームの惨状。
1月の移籍市場解禁まであと1ヶ月。ハマーズは今、生き残りをかけたギャンブルに出ようとしている。ターゲットは、中東の地で異次元の決定力を見せつける22歳のブラジル人、マルコス・レオナルドであると英『Hammers News』が伝えた。
「理想」が「重荷」に変わった日—フュルクルクという誤算
時計の針を少し巻き戻そう。2024年の夏、ウエストハムはボルシア・ドルトムントからドイツ代表FWニクラス・フュルクルクを迎え入れた。移籍金2700万ポンド。チャンピオンズリーグ決勝の舞台を知るベテランの加入に、サポーターは色めき立った。だが、その期待は無残にも打ち砕かれた。
現在に至るまで、フュルクルクがハマーズにもたらしたものは、ゴールではなく、絶え間ないフラストレーションとメディカルルームでの滞在記録。度重なる筋肉系のトラブルに加え、プレミアリーグ特有のハイテンポなトランジションについていけない場面が散見される。
ポゼッション時に前線で起点となることを期待されたが、ヌーノ監督が志向する鋭いカウンターアタックにおいて、彼の鈍重さは致命的な足かせとなってしまった。
フュルクルクの1月退団が決定的であると報じている。ハンブルガーSVやヴォルフスブルクといった母国のクラブが関心を示しており、本人も2026年ワールドカップを見据えて環境を変えることを熱望しているという。
チーム総得点はリーグワーストレベルに低迷し、カラム・ウィルソンら他の攻撃陣も負傷や不調に喘ぐ。ヌーノ監督が必要としているのは、ただゴール前に立っているだけのターゲットマンではない。相手ディフェンスラインの裏を突き、一瞬の隙を突いてネットを揺らすことができる、獰猛なプレデターだ。そしてその答えとして浮上したのが、マルコス・レオナルドという選択肢だった。
砂漠で見つけた「ダイヤの原石」マルコス・レオナルド
マルコス・レオナルド。サントスFCが生んだ新たな才能は、2024年夏に欧州のビッグクラブではなく、サウジ・プロフェッショナルリーグのアル・ヒラルを新天地に選んだ。多くの識者が「早すぎる都落ち」と嘆いたが実力で雑音を封じ込めた。
2025/26シーズン、彼はここまでリーグ戦6試合に出場し、6ゴールを記録している。驚異的な決定率だ。90分あたり1ゴールという数字は、彼がボックス内でいかに危険な存在であるかを如実に示している。ブラジルU-23代表でも主力を担った彼の武器は、南米選手特有の足元の技術に加え、欧州のストライカー顔負けのポジショニングセンスにある。
ウエストハムは既にこの若きストライカー獲得に向けて動き出している。しかし、現実は甘くない。同紙によれば、ハマーズが提示した2000万ポンドのオープニングオファーは、アル・ヒラルによって即座に拒否された。
アル・ヒラルは資金に困っているクラブではない。彼らにとって2000万ポンドという金額は、主力選手を手放す理由になり得ない。レオナルドとの契約は2029年まで残されており、サウジの王者は非売品に近い扱いをしている。
それでも、ヌーノ監督は諦めていない。フュルクルクという重りを外し、レオナルドという翼を手に入れること。これこそが、後半戦の巻き返しに向けた唯一の解であると確信しているからだ。プレミアリーグでのプレーはレオナルド本人にとっても魅力的なはずであり、選手側の意向が交渉の突破口になる可能性は残されている。
個人的な見解
ウエストハムのフロント陣は猛省すべきだ。フュルクルクの獲得が失敗だったことは誰の目にも明らかだが、問題はその場当たり的な補強戦略にある。チーム戦略とは異なり、機能しづらいタイプのFWを高額で獲得したチグハグさが低迷を招いた元凶と言える。
今回、マルコス・レオナルドに白羽の矢を立てたこと自体は評価できる。彼の俊敏性と決定力は、ヌーノの戦術に完璧にフィットするだろう。しかし、2000万ポンドという提示額は、アル・ヒラルに対する「侮辱」と受け取られても仕方がない。
本気で獲得を狙うなら、クラブの記録を更新するレベルのオファー、少なくとも少なくとも4000万ポンド級の巨額をテーブルに乗せる覚悟が必要だ。
降格という二文字が現実味を帯びて迫ってくる中、守銭奴のような交渉をしている時間はない。フュルクルクを損切りし、その資金に上乗せしてでもレオナルドを強奪する。それくらいの気概を見せなければ、ロンドン・スタジアムの熱狂的なサポーターは納得しないだろう。
1月、ハマーズの本気度が試される。もしこの補強に失敗すれば、来シーズン、我々はチャンピオンシップ(2部)の冷たい風に晒されることになるかもしれない。
