北ロンドンの凍てつくような寒風とは対照的に、エミレーツ・スタジアムの奥深くにある強化部門のオフィスは、かつてないほどの熱気に包まれている。2025年も師走を迎え、ピッチ上の戦いが激化する一方で、クラブの未来を決定づける盤外戦がすでに火花を散らしている。
スポーツディレクターの座に就くアンドレア・ベルタが描く未来図は、これまでのアーセナルの常識を覆すほどに壮大で、そして冷徹なまでに勝利に飢えている。彼らが目指すのは、プレミアリーグの優勝争いに参加することではない。
欧州フットボール界の頂点に君臨し、他クラブを足元にひれ伏させる絶対的な覇権の確立だ。その野望を実現するための具体的なターゲットが、バイエルン・ミュンヘンのマイケル・オリーセ、そしてボルシア・ドルトムントのセルー・ギラシという二人の傑物である。
2026年の勢力図を塗り替えるマイケル・オリーセという極上のピース
バイエルン・ミュンヘンで背番号を背負い、アリアンツ・アレーナの観衆を沸かせているマイケル・オリーセ。2024年夏にクリスタル・パレスからドイツの絶対王者へと渡った彼は、ブンデスリーガという新たな戦場でもその才能が本物であることを証明し続けている。
右サイドからカットインし、相手守備陣を切り裂く左足の鋭さは、世界中のディフェンダーにとって悪夢そのものだ。スポーツジャーナリストのフレイザー・フレッチャー氏がもたらした情報は、アーセナルサポーターの鼓動を早めるに十分なインパクトを持っていた。
アーセナルは、このフランス代表のアタッカーを2026年の最重要ターゲットに据え、水面下でベルタ主導による包囲網を敷き始めているというのだ。
リヴァプールもまた、偉大なる王モハメド・サラーの後継者としてオリーセに熱視線を送っている。しかし、アーセナルはライバルに先んじてアクションを起こす構えを見せている。2029年までバイエルンとの契約を残すオリーセを引き抜くには、天文学的な移籍金が必要となるのは火を見るよりも明らかだ。
だが、ベルタとクラブ首脳陣に躊躇はない。彼らはオリーセの獲得を、クラブのブランド力を世界に示すためのデモンストレーションと捉えている。ブカヨ・サカ、ガブリエウ・マルティネッリに加え、オリーセまでもが揃う攻撃陣。それはもはや反則級の破壊力を有し、対戦相手に試合前から絶望を植え付ける最強の布陣となる。
未来への布石はトップチームの即戦力だけにとどまらない。南米エクアドルの名門インデペンディエンテ・デル・バジェから、16歳の双子、エドウィン・キンテロとホルガー・キンテロの獲得を内定させたというニュースも飛び込んできた。
ESPNやファブリツィオ・ロマーノ氏が裏付けるこの情報は、アーセナルのスカウティング網が地球の裏側にまで張り巡らされている証拠と言える。「ネクスト・ネイマール」の呼び声高いウインガーのエドウィンと、才気溢れるMFホルガー。彼らが正式に合流するのは18歳となる2027年8月だが、数年後の主力を見据えたこの先見性こそが、持続可能な強豪クラブを作り上げるための礎となる。
即効性のある劇薬ギラシの確保と英雄ジェズスの帰郷
2026年を見据えた動きと並行して、目の前に迫る2026年1月の移籍市場における動きも具体的。前線の絶対的な柱であるヴィクトル・ギェケレシュの負担を軽減し、同時に強烈な競争意識を植え付ける存在として、ボルシア・ドルトムントのセルー・ギラシに白羽の矢が立った。
ブンデスリーガでゴールを量産するこのギニア代表ストライカーには、5000万ユーロという契約解除条項が存在する。この条項を行使できるのはアーセナルやマンチェスター・ユナイテッドを含む選ばれし7クラブのみ。
ベルタはこの特権を行使し、冬の移籍市場で確実にゴールを奪えるハンターを連れてくる算段だ。ギラシの圧倒的なフィジカルと得点感覚は、プレミアリーグの屈強な守備陣を粉砕する新たな武器となるに違いない。
新たな怪物がやってくるということは、誰かが去らねばならないという厳しい現実を突きつける。その対象となっているのが、かつてのエース、ガブリエウ・ジェズスだ。パルメイラスの事情に精通するディエゴ・フィルミーノ氏らの情報によれば、ブラジルの古巣パルメイラスが1月にジェズスを連れ戻すため、買い取りオプション付きのローン移籍での交渉を開始したという。
マンチェスター・シティから北ロンドンへやってきた際、ジェズスがもたらした功績は計り知れない。彼のアグレッシブなプレッシングと巧みなポストプレーは、ミケル・アルテタの戦術を機能させるための中心だった。
しかし、度重なる負傷と、ここ一番での決定力不足が彼の評価を徐々に蝕んでいったのも事実。28歳という年齢は、ストライカーとしてまだ老け込む歳ではない。だが、ブラジル代表への復帰を切望する彼にとって、ベンチを温める時間は耐え難い苦痛だろう。パルメイラスは彼に主役の座を用意している。
個人的な見解
アンドレア・ベルタという男の恐ろしさを、改めて思い知らされるニュースだ。マイケル・オリーセという、現在のバイエルン・ミュンヘンにおける絶対的な主力に手を伸ばす。数年前のアーセナルならば、夢物語として一笑に付されていたはずだ。
だが、今の彼らは本気でそれを実現させようとしている。サカとオリーセが両翼に君臨する未来など、想像するだけで身震いが止まらない。左利きのテクニシャンを両サイドに配置し、中央にはギェケレシュやギラシといった理不尽なまでのフィジカルモンスターを置く。アルテタが目指す「完全無欠のフットボール」の完成形が、おぼろげながら見えてきた気がする。
一方で、ガブリエウ・ジェズスの退団報道には、胸が締め付けられるような思いがある。彼がアーセナルにもたらした「勝者のメンタリティ」は、数字上のゴール数などでは測れない価値があった。
彼が前線で身体を張り、泥臭くボールを追い回す姿に、どれほど多くのサポーターが勇気づけられたことか。しかし、プロの世界は結果がすべてだ。ギラシのような「ゴールという結果」を保証するストライカーが必要なのも、また真理である。
ジェズスが母国ブラジルで再び輝きを取り戻し、セレソンのユニフォームを着てワールドカップのピッチに立つ姿を見たい。それが、彼を愛したグーナーとしての偽らざる本音だ。別れは寂しいが、進化への渇望がそれを上回る。
今のアーセナルには、その残酷ささえもポジティブなエネルギーに変える強さがある。