バーミンガムの冬空は鉛色だが、ヴィラ・パークの熱気は沸点に達している。開幕6戦勝ちなしという悪夢のようなスタートを誰が覚えていただろうか。ウナイ・エメリ監督率いるアストン・ヴィラはそこから怒涛の7連勝を記録し、先日行われた首位アーセナルとの大一番をも制した。首位との勝ち点差はわずか「3」。タイトルレースの正当な挑戦者として名乗りを上げた瞬間だった。
しかし、ピッチ上の歓喜とは裏腹に、クラブの奥の部屋では冷徹な計算機が叩かれている。栄光を掴むためのラストピースを加えるには、現在のスカッドにメスを入れなければならないからだ。プレミアリーグの持続可能性規則(PSR)という足枷は、野心に燃えるクラブの首を容赦なく締め上げる。
英『Football Insider』が報じた内容は、サポーターの祝杯を凍りつかせるに十分だった。クラブは1月の移籍市場で新たな火力を加える資金と給与枠を確保するため、ジェイドン・サンチョ、ハーヴェイ・エリオット、そして絶対的なエースであるオリー・ワトキンスの3名を放出候補としてリストアップしているという。
3500万ポンドの衝撃:オリー・ワトキンスは本当に「売り」なのか
数字は嘘をつかないが、真実のすべてを語るわけでもない。今季のオリー・ワトキンスを巡る評価は、見る角度によって極端に分かれる。29歳となったストライカーは、リーグ戦15試合に出場し、わずか3ゴール。
この数字だけを切り取れば、タイトルを争うチームの「9番」としては明らかに物足りない。経営陣が彼の市場価値が残っているうちに換金し、より決定力のあるフィニッシャーを連れてきたいと考えるのも、帳簿上は理屈が通る。
報じられた3500万ポンドという値札は、昨今のインフレした市場においてはバーゲン価格にも映るが、クラブにとっては即座に動かせる貴重なキャッシュとなる。
だが、エメリの戦術眼は異なる景色を捉えているはず。ワトキンスは直近の公式戦でもスタメンに名を連ね続けている。彼の真価は、ネットを揺らす回数ではなく、相手ディフェンスラインを切り裂く献身的なランニングと、前線からの猛烈なプレッシングにある。サイドに流れてスペースを作ることで、中盤の選手たちが飛び込むレーンが生まれる。潰れ役となることで、チーム全体が前進する推進力を得る。
もし1月に彼を放出するという決断を下すなら、それはチームの心臓を摘出するに等しい。代役として噂されるトッププレイヤーが、エメリの複雑な戦術タスクを即座にこなし、ワトキンス以上の機能性を提供できる保証はどこにもない。
名門からのレンタル組、サンチョとエリオットに突きつけられる明暗
一方で、リヴァプールとマンチェスター・ユナイテッドという二大名門からやってきた「レンタル組」の去就もまた、財政調整の重要なファクターとなる。
ハーヴェイ・エリオットのケースは比較的シンプルだ。リヴァプールから鳴り物入りで加入したものの、ヴィラの中盤における激しいポジション争いの中で埋没している。出場機会が限られている現状では、高額な給与負担に見合うリターンを提供できているとは言い難い。
エメリが彼を戦力外と見なし、ローンの打ち切りや再放出によって給与枠を空ける判断を下すのは、ビジネスとしても戦力管理としても妥当なライン。才能はあるが、今のヴィラのシステムにはフィットしきれなかった。プロの世界ではよくある残酷な結末の一つに過ぎない。
しかし、ジェイドン・サンチョの扱いはより繊細なバランス感覚を要する。マンチェスター・ユナイテッドからのアタッカーは、絶対的なレギュラーではないものの、直近のリーグ戦7試合中6試合でピッチに立ち、ヨーロッパリーグでは全試合先発と、ローテーションの核心を担っている。過密日程を強いられる12月、1月の戦いにおいて、彼の持つドリブルでの打開力と、狭い局面での技術は貴重な武器になり得る。
経営陣にとって、サンチョの高額な給与は頭痛の種だろう。だが、彼を放出すれば、攻撃のオプションは確実に一つ減る。怪我人が一人出れば破綻しかねない薄氷の選手層でタイトルレースを走り抜けるつもりなのか。
エメリは今、現場の指揮官としての戦力維持の要求と、クラブ全体の財政健全化という至上命令の板挟みにあっている。この3人の処遇は、アストン・ヴィラが本気でトロフィーを掲げる覚悟があるのか、それとも単に収支を合わせたいだけなのか、その本性を白日の下に晒すことになるだろう。
個人的な見解
シーズン途中の、それもチームがこれほどまでに波に乗っている最中に、戦術の核であるオリー・ワトキンスを売りに出そうなどという発想は、フットボールを知らない人間の戯言だと断じたい。
3500万ポンド?今のプレミアリーグでその金額でまともなストライカーが獲れるとでも思っているのだろうか。ワトキンスの貢献度はゴール数だけで計れるものではない。彼を失えば、ヴィラの快進撃は1月で急停止し、春には「あの時売らなければ」という後悔だけが残るだろう。
一方で、ハーヴェイ・エリオットの整理はやむを得ない。プロフットボールは慈善事業ではないのだから、ピッチで違いを作れない高給取りに居場所がないのは当然の理屈。しかし、サンチョに関しては慎重になるべきだ。
タイトルレースの勝負所は、ベンチにどれだけ試合を変えられるカードを持っているかで決まる。わずかな給与をケチって強力なジョーカーを捨てるような真似をすれば、エメリの緻密なプランも画餅に帰す。
ヴィラのフロント陣よ、今見るべきは電卓の数字ではない。ピッチ上で選手たちが放つ、あの圧倒的な熱量だ。
