マージーサイドの凍てつく風よりも冷ややかな現実が、リヴァプールの強化部門を襲っている。クリスマスの過密日程を前にしてアンフィールドのオフィスに飛び込んできたのは、あまりにも深刻な「警告」だった。
英『TEAMtalk』が報じた内容は、リヴァプールが数年来温めてきた守備陣再編プランを根本から崩壊させかねない破壊力を秘めている。ターゲットは、クリスタル・パレスの闘将マルク・グエイ。イングランド代表の未来そのものである25歳のセンターバックを巡り、スペインの巨人が決定的な一手を打ったのだ。
「1月1日」という絶対的な境界線とカタルーニャの策略
事態は切迫している。同紙によれば、ラ・リーガの現王者であるバルセロナは、過去2週間という短い期間に、すでにグエイの代理人に対して「2度の正式なアプローチ」を行ったという。
この動きの速さは、彼らの本気度を如実に表している。アンドレアス・クリステンセンの退団が確実視され、イニゴ・マルティネスが去った後の最終ラインに空いた穴を埋めるため、ブラウグラナはなりふり構わず行動を開始した。
ここでリヴァプールサポーターが直視しなければならない、痛恨の「ルール上の劣勢」がある。グエイとクリスタル・パレスの契約は今シーズン限り、つまり2026年の夏で満了を迎える。ボスマン判決に基づく国際移籍の規定により、国外クラブであるバルセロナは、年が明けた「1月1日」から、選手サイドと来季に向けた事前契約を自由に結ぶ権利を手にするのだ。
あと1ヶ月もすれば、バルセロナは合法的に、移籍金ゼロでの獲得を約束する書類をグエイの目の前に提示できる。一方で、国内リーグに所属するリヴァプールにはその特権がない。プレミアリーグのライバルからフリーで引き抜くには、契約が完全に切れる夏まで待つ必要がある。
もし冬に動くなら、パレスが要求する巨額の移籍金を満額支払うしかない。バルセロナはこの「時間の利」を最大限に活用し、リヴァプールが手出しできない聖域から、着々とグエイの心をカタルーニャへと傾かせている。
2021年にチェルシーからセルハースト・パークへ渡って以来、彼はプレミアリーグという激戦区で150試合以上のキャップを刻み、弱小クラブのレッテルを貼られがちなパレスを強固な守備組織へと昇華させた。
身長こそ182cmとセンターバックとしては小柄だが、その欠点を補って余りある跳躍力、対人戦での圧倒的な勝率、そして何よりも最後尾からチーム全体を動かすコーチング能力は、現代フットボールが求める理想像そのものだ。25歳にして主将を務めるその統率力は、かつてアンフィールドでスティーブン・ジェラードが見せたそれに通じるものがある。
バルセロナが狙うのは、まさにこの完成されたリーダー。財政難が叫ばれて久しい彼らにとって、イングランド代表クラスのCBをフリー、あるいは冬の市場でバーゲン価格にて手に入れることは、クラブの再建における最重要ミッションとなっている。
崩れ落ちる「後継者計画」と負傷が招いた緊急事態
リヴァプールがこれほどまでにグエイを必要とする背景には、クラブ内で静かに、しかし確実に進行している「守備の危機」がある。フィルジル・ファン・ダイクは依然として神懸かり的なパフォーマンスを見せているが、30代半ばを迎えた肉体に永遠を求めるのは酷。
彼の隣に立つイブラヒマ・コナテについても、レアル・マドリードが来夏の獲得を見送ったとはいえ、契約延長交渉が難航している事実は消えず、長期的な主力として計算できるかには疑問符が付く。
そして何より、リヴァプールの補強プランを狂わせたのが、期待の若手ジョヴァンニ・レオーニの長期離脱だ。膝の重傷により2026/27シーズンの開幕すら絶望的となった今、クラブが描いていたベテランから若手へのスムーズな移行というシナリオは破綻した。
もはや、時間をかけて育てる余裕はない。即座に赤いユニフォームに袖を通し、チャンピオンズリーグのアンセムを聞きながら最終ラインを統率できる即戦力が必要不可欠なのだ。
グエイは、アルネ・スロット監督が志向するハイライン戦術にも完璧に適応する。背後の広大なスペースをカバーするスピード、ビルドアップ時に中盤へ質の高いパスを供給する技術。彼こそが、ファン・ダイクの正当な後継者であり、コナテと競い合える唯一無二の存在。
バルセロナのアドバンテージは強固だが、まだ勝負が決したわけではない。だが、これまでのFSG(フェンウェイ・スポーツ・グループ)のような「適正価格になるまで待つ」という姿勢を貫けば、敗北は確実。
1月1日というデッドラインは刻一刻と迫っている。リヴァプールに残された道は、冬の移籍市場が開くと同時に、クリスタル・パレスが断れないほどのオファーを提示し、バルセロナとの事前合意を未然に防ぐことだけだ。これはもはや補強ではない。クラブの未来を守るための防衛戦と言えるだろう。
個人的な見解
なぜリヴァプールは、ここまで後手に回ってしまったのか。マルク・グエイの契約状況など、数年前から分かっていたこと。ファン・ダイクの年齢も、コナテの稼働率の低さも、すべて予測できたリスクだったはずだ。それなのに、なぜ12月のこの時期になって「バルセロナに先行されている」という屈辱的な報道を目にしなければならないのか。
レオーニの負傷は不運だった。だが、ビッグクラブの運営を「運」に委ねてはならない。グエイのような、プレミアリーグで実績十分かつリーダーシップを備えたイングランド人選手を、みすみす国外へ、しかも直接のライバルになり得るバルセロナへフリー同然で渡すことは、リヴァプールにとって最大の失策となるだろう。
彼のプレースタイルは、明らかにラ・リーガよりもプレミアリーグ向きだ。彼自身もそれを理解していると信じたいが、バルセロナというブランドが持つ魔力は計り知れない。
FSGに求めたいのは、帳簿のバランスを整えることではない。今この瞬間に必要なのは、ピッチ上のバランスを崩壊させないための決断だ。1月にクリスタル・パレスへ現金を積み、グエイをアンフィールドへ連れてくる。それ以外の選択肢など存在しない。
もし彼を逃せば、来シーズンのリヴァプール守備陣は、名前負けするだけの脆い壁へと成り下がる危険性が極めて高い。今こそ、野心を見せる時だ。タイトルを争うチームに必要なのは、将来への投資ではなく、現在を勝ち取るための戦力なのだから。
