冬の足音がタイン川の川面を揺らす季節となったが、フットボール界のストーブリーグは早くも熱を帯び始めている。ニューカッスル・ユナイテッドのサポーターにとって、アカデミーが生んだ最高傑作、ルイス・マイリーの名前が移籍ゴシップの紙面を飾ることほど、胸をざわつかせ、同時に怒りを覚える出来事はないだろう。
ロンドンのクリスタル・パレスが、この19歳の神童に触手を伸ばしているという報道が駆け巡った。だが、結論を急ごう。この話は、マグパイズの強固な意志の前に、波打ち際で砕け散る運命にある。
ニューカッスルが突きつける「非売品」の看板とパレスの誤算
英『Football Insider』が報じたところによれば、クリスタル・パレスは来る1月の移籍市場、あるいは来夏のウィンドウを見据え、ルイス・マイリーの獲得画策を進めているという。
パレスのオリヴァー・グラスナー監督は、若く才能あふれるタレントを自身のハイインテンシティな戦術に組み込む手腕に長けており、彼らがマイリーに目をつけた事実は、そのスカウティング眼の確かさを裏付けている。
アダム・ウォートンをブラックバーンから引き抜き、瞬く間にイングランド代表クラスへと昇華させた成功体験が、彼らをさらなる若き才能の狩りへと駆り立てているのだ。
しかし、元マンチェスター・ユナイテッドのスカウトであり、業界の深層を知るミック・ブラウンが同メディアに明かした言葉、「ニューカッスルはいかなるオファーも受け付けない」はパレスの淡い期待を完膚なきまでに打ち砕くものだった。
ブラウンの言葉はただの観測ではなく、クラブの確固たる方針を代弁している。これは交渉の余地を残した拒絶ではない。タインサイドのクラブにとって、マイリーを放出リストに載せるという行為は、自らのアイデンティティを否定することと同義なのだ。
昨シーズン、主力選手の相次ぐ離脱という危機的状況下でピッチに立ったマイリーは、年齢という概念をあざ笑うかのようなパフォーマンスを見せつけた。チャンピオンズリーグという最高の舞台で、パリ・サンジェルマンやミランといった欧州の貴族たちと対峙しても、彼のプレーからは微塵も動揺が感じられなかった。
189センチを超える長身を優雅に操り、密集地帯でもボールを失わないキープ力、そして何より、ここぞという場面で決定的なパスを供給する戦術眼。これらは一朝一夕で身につくものではなく、彼が本来持っている天性の資質。
エディ・ハウ監督が彼に全幅の信頼を寄せる理由は、将来有望な若手だからではない。すでにプレミアリーグの激闘を制するために不可欠な戦力だからだ。
PSRの呪縛とアカデミー出身選手の価値
近年のプレミアリーグにおいて、各クラブの経営陣を悩ませているのが「収益性と持続可能性に関する規則(PSR)」という名の足枷。この規則をクリアするために、チェルシーやアストン・ヴィラといったクラブは、帳簿上の純利益として計上できる「アカデミー出身選手の売却」という劇薬に手を染めてきた。
ニューカッスルとて、この財務的な重圧とは無縁ではない。サウジアラビアの公共投資基金(PIF)という強力なバックボーンを持ちながらも、ルールという枠組みの中で戦わなければならない現実は変わらない。
経営的な視点のみで語れば、元手のかかっていないマイリーを高値で売却することは、財務諸表を劇的に改善する特効薬となり得る。クリスタル・パレスが提示するであろう移籍金は、間違いなく魅力的な数字になるはずだ。
だが、ニューカッスル首脳陣は、数字の羅列よりも遥かに重い価値がマイリーにあることを熟知している。クラブが目指す持続的な成功の体現者であり、地元ニューカッスルで生まれ育った少年がスターダムを駆け上がるという、ファンが最も熱狂するストーリーの主人公なのだ。
2025/26シーズン現在、サンドロ・トナーリ、ブルーノ・ギマランイス、ジョエリントンらが形成する中盤はリーグ屈指の強度を誇る。しかし、長いシーズンを戦い抜く上で、彼らとは異なるリズムと色彩を加えられるマイリーの存在は、チームの戦術的な幅を広げるための生命線。
怪我による出遅れがあったとはいえ、コンディションを取り戻した彼が見せるプレーは、以前にも増して円熟味を増している。そんな逸材を、同リーグのライバルになり得るクラブへ引き渡す愚行を、野心溢れるマグパイズが犯すはずがない。
エディ・ハウが築き上げようとしているのは、一時的な成功ではなく、黄金時代の到来だ。そのためには、生え抜きのコアメンバーが絶対に欠かせない。
クリスタル・パレスの興味は、ニューカッスルに対するある種の「挑発」とも受け取れる。だが、セント・ジェームズ・パークの門は固く閉ざされ、その奥にはマイリーという未来が大切に守られている。
この冬、あるいは次の夏、どれだけの大金を積まれようとも、黒と白の縦縞を纏った19歳がロンドンへ向かうことはない。彼はここで伝説を作る。その第一章はまだ始まったばかりなのだ。
個人的な見解
クリスタル・パレスのスカウティング部門には、ある種の敬意と同時に、底知れぬ貪欲さを感じる。アダム・ウォートン、エベレチ・エゼ、マイケル・オリーセと、彼らが発掘し磨き上げた才能のリストを見れば、ルイス・マイリーに白羽の矢を立てたことは極めて合理的。
もしマイリーがパレスの中盤でウォートンとコンビを組めば、それはイングランド代表の未来を先取りするような、魅惑的な光景になったかもしれない。彼らの「目の付け所」は常に鋭く、フットボールファンを唸らせるものがある。
だが、ニューカッスルの番記者視点で言わせてもらえば、この噂は不愉快極まりない。PSR対策として生え抜きを売るという近年の悪しきトレンドに、ニューカッスルも乗るだろうと足元を見られているようでならないからだ。
ルイス・マイリーは、スティーブン・ジェラードがリヴァプールにとってそうであったように、ニューカッスルの魂を継承する存在にならなければならない男だ。
ミック・ブラウンが「考慮もしない」と断言したことは、クラブが単なるビジネスロジックだけで動いていない証明であり、非常に心強い。サウジマネーが入っても、クラブの核となるのは地元の少年であるというロマン。これだけは、どんなに時代が変わっても死守すべき聖域なのだ。
