マンチェスターの街はクリスマスシーズンの喧騒に包まれているが、オールド・トラッフォードの一角だけは冷ややかな空気が停滞している。かつてこの劇場の希望そのものだった男、コビー・メイヌー。
20歳になった彼は今、ピッチの上で躍動するのではなく、ベンチウォーマーとして冷たい椅子を温める日々を送っている。イングランド代表として2026年北中米ワールドカップを半年後に控えたこの重要な時期に、クラブ生え抜きの至宝が出場機会を求めて脱出を図ろうとしている事実は、ユナイテッドサポーターにとってあまりにも受け入れがたい現実と言える。
英『TEAMtalk』が報じた内容によれば、ドイツの絶対王者バイエルン・ミュンヘン、そしてプレミアリーグの宿敵であるマンチェスター・シティとトッテナムが、8000万ポンドの評価額を持つ20歳MFの獲得に本腰を入れているようだ。
ベンチに座る選手につく値段としては破格だが、それは彼のポテンシャルに対する正当な評価に過ぎない。ルベン・アモリム体制が2シーズン目を迎え、戦術的な規律とフィジカル偏重の序列が固まる中、メイヌーの繊細なボールタッチと推進力は、皮肉にもチームの構想から外れてしまった。だが、時計の針は残酷に進んでおり、移籍を狙うのは選手として当然だろう。
バイエルン・ミュンヘンが提示する「ワールドクラスへの招待状」
ブンデスリーガの盟主バイエルン・ミュンヘンがメイヌに熱視線を送る理由は明白。彼らは中盤に「支配者」を求めている。ヨシュア・キミッヒやアレクサンダル・パブロビッチといった既存の戦力に加え、さらにゲームをコントロールできる若き才能を加えることで、盤石な帝国の維持を目論んでいる。
バイエルンにはジャマール・ムシアラのように、イングランドにルーツを持つ若手が世界的なスターへと飛躍した成功体験がある。メイヌーにとって、アリアンツ・アレーナは理想的な再生工場となり得る。
ブンデスリーガの戦術的傾向もメイヌには追い風だ。プレミアリーグ特有の肉弾戦よりも、スペースの攻略と戦術的インテリジェンスが重視されるドイツのフットボールは、本来の持ち味である「狭い局面を打開するドリブル」や「正確無比な配球」を最大限に引き出す。
アモリムの3-4-3システムにおけるダブルボランチの一角として守備的なタスクに忙殺されるよりも、バイエルンの流動的な攻撃の中でタクトを振るう姿のほうが、容易に想像がつく。8000万ポンドという巨額の投資も、バイエルンにとっては将来のバロンドール候補を確保するための必要経費。彼らは本気でメイヌーを欲しており、その熱量は冷え切ったマンチェスターでの扱いとは対照的である。
マンチェスター・シティの影とトッテナムの野心
ユナイテッドファンにとって最大の悪夢は、メイヌーが国内のライバルクラブへ移籍することだ。特にマンチェスター・シティへの移籍話は、実現すれば歴史的な裏切りとして語り継がれることになるだろう。
だが、ペップ・グアルディオラが指揮するシティの中盤こそ、メイヌの技術が最も輝く場所であるという残酷な真実も否定できない。ロドリの負担を軽減し、あるいはベルナルド・シウバの役割を引き継ぐ存在として、シティのスカウト陣がメイヌをリストアップしているのは理にかなっている。
一方で、トーマス・フランク監督率いるトッテナムも黙ってはいない。彼らの掲げる攻撃的フットボールには、中盤での強度の高いプレス回避能力が不可欠。パペ・マタル・サールら強力なフィジカルを持つMFたちの中に、メイヌのような異質のテクニシャンを加えることは、スパーズにとって最後のピースを埋める作業に等しい。
トッテナムであれば、シティほどの激しい定位置争いに巻き込まれることなく、即座にチームの中心として迎え入れられる可能性も高い。
問題はユナイテッドのプライドだ。国内の直接的なライバル、それも同じ街の宿敵に、自ら育て上げた宝石を売り渡すことができるのか。もしそれを許せば、現経営陣はサポーターからの信頼を完全に失うことになる。だが、選手本人のキャリアを第一に考えた時、プレミアリーグでの適応済みであるメイヌーにとって、環境を変えずに輝ける国内移籍は魅力的な選択肢として映るはずだ。
個人的な見解
コビー・メイヌーがベンチで燻っている現状を見るたびに、胸が締め付けられるような怒りを覚える。ユナイテッドのアカデミーが生んだ最高傑作の一人が、戦術的な不適合という理由だけで構想外となり、他クラブへの移籍を余儀なくされようとしている。
これはクラブの強化方針における重大な敗北だ。アモリム監督の目指すフットボールに敬意は払うが、メイヌーのような稀有な才能を使いこなせないシステムに、果たしてどれほどの正当性があるのか疑問を抱かざるを得ない。
半年後にはワールドカップが控えている。イングランド代表にとっても、メイヌーが毎週ピッチに立ち、最高レベルの試合勘を維持することは至上命令。ユナイテッドで飼い殺しにされるくらいなら、バイエルンであれシティであれ、彼を必要とする場所へ解き放つべき。
フットボールファンとして、コビー・メイヌーという才能が輝きを失っていく様をこれ以上見たくはない。彼が再び笑顔でボールを蹴る姿を見られるなら、そのユニフォームが赤でなくとも、私は彼に拍手を送るだろう。
冬の移籍市場、この若き才能の決断が、沈滞するユナイテッドに強烈な平手打ちを見舞うことを密かに期待している自分がいる。