イースト・ロンドンの冷たい風が、かつての世界王者の頬を叩く。ウェストハム・ユナイテッドのトレーニンググラウンドには、重苦しい空気が漂っている。ピッチ上で指揮を執るヌーノ・エスピリト・サント監督の視線の先に、アルゼンチン代表MFギド・ロドリゲスの姿はないかもしれない。あるいは、いたとしても構想の枠外、透明な存在として扱われている。
英『TEAMtalk』が報じた衝撃的なニュースは、サポーターの間で囁かれていた懸念を確信へと変えた。クラブは来る1月の移籍市場で、ギド・ロドリゲスとの契約を解消する準備を進めている。夏を待たずしての決別。それは、プレミアリーグという猛獣が、また一人、ラ・リーガの名手を飲み込み、吐き出そうとしている瞬間となる。
ヌーノ・エスピリト・サントの構想外!なぜアルゼンチンの至宝はロンドンで輝きを失ったか
遡ること、2024年の夏。レアル・ベティスとの契約を満了し、フリートランスファーでロンドン・スタジアムに降り立ったとき、ギド・ロドリゲスは間違いなく「賢明な補強」と称賛された。
中盤の底でゲームをコントロールし、危険な芽を摘み取る。カタールでワールドカップを掲げた経験値は、ハマーズの中盤に安定と秩序をもたらすと誰もが信じていた。だが、現実はあまりにも残酷だ。加入から1年半が経過した今、彼の評価は地に落ちたと言っていい。
ヌーノ・エスピリト・サント体制下におけるウェストハムは、規律と強烈なフィジカル、そして電撃的なトランジションを信条とする。ヌーノが求めるボランチ像は明確。ピッチを縦横無尽に駆け回り、相手の懐に飛び込み、奪ったボールを瞬時に前線へ供給するダイナミズム。
残念ながら、31歳となったギドのプレースタイルは、この要求とは対極にある。彼の持ち味であるポジショニングの妙や、スローテンポでリズムを作る能力は、ヌーノの戦術盤の上では遅さとしてしか認識されない。
データは嘘をつかない。今シーズン、ギドがピッチに立ったのは公式戦わずか4試合。かつてベティスの心臓として君臨した男が、ベンチを温めることすら許されない日々が続く。直近のブライトン戦で今季2度目のリーグ戦先発を果たしたものの、そのパフォーマンスが指揮官の信頼を取り戻すきっかけになったとは到底思えない。
試合のスピード感に置いていかれ、デュエルで後手に回るシーンが散見された。ヌーノのサッカーにおいて、中盤のフィルターが機能しなければ、チーム全体が崩壊の危機に晒される。指揮官が彼を重要な戦力と見なさなくなったのは、個人的な好みなどではなく、戦術的な必然である。
契約は今シーズン終了時、つまり2026年夏まで残っている。通常であれば契約満了を待っての退団が既定路線だが、ウェストハム首脳陣の判断は迅速かつ冷徹で、これ以上彼に時間を割く必要はない。
1月のマーケットが開くと同時に、彼らはギドに対して退団への扉を大きく開け放つだろう。新たな契約の提示など論外であり、彼らの関心はいかにしてこの高給取りをスカッドから外し、新たな血を入れるかという一点に集中している。
刷新へのカウントダウン…フュルクルクと共に進む「損切り」と1月の野望
ウェストハムが1月放出にこだわる理由は、ピッチ上のパフォーマンスだけではない。そこには明確な財政的な意図、より直接的に言えば「損切り」の論理が働いている。
31歳のベテランに対し、移籍金を支払うクラブを見つけるのは至難の業。クラブ側もそれは百も承知だろう。移籍金収入はゼロ、あるいは契約解除金が発生したとしても、彼を放出することで浮く高額な週給は、クラブにとって計り知れない価値を持つ。
この冬の大掃除のリストに名を連ねているのは、ギドだけではない。同じく2024年夏に加入し、大きな期待を背負ったドイツ代表ストライカー、ニックラス・フュルクルクもまた、出口へと向かっている。
彼も怪我やプレミアリーグへの適応不足に苦しみ、ヌーノの信頼を勝ち取れていない。ギドとフュルクルク。2024年の夏、クラブが野心を持って迎え入れた二人のベテランが、わずか1年半で同時にチームを去ろうとしている。これは、当時の補強戦略が完全に裏目に出たことをクラブ自らが認める行為に他ならない。
しかし、ウェストハムは過去を悔やんで立ち止まるつもりはないようだ。彼らの視線はすでに1月のマーケットに向けられている。ギドとフュルクルクの放出によって生まれる人件費の余白こそが、ヌーノが熱望する「走れる中盤」「強度の高いアタッカー」を獲得するための原資となる。
ロンドン・スタジアムの観衆は、名前だけのビッグネームではなく、泥臭く戦い、チームのために汗を流せる戦士を求めている。ヌーノもまた、自身の哲学を体現できる駒を揃えるために、不適合なピースを排除することに躊躇はない。
もし1月に新しい所属先が見つからなければ、ギドはシーズン終了までロンドンに残ることになる。だが、それは飼い殺しを意味する。出場機会は皆無に等しく、ただ契約満了の日を待つだけの時間は、プロフットボーラーにとって拷問に近い。
クラブとしては、たとえ無償であっても彼を放出し、チームの風通しを良くすることを最優先事項としている。冬の移籍市場は、ウェストハムにとって後半戦への起爆剤となる補強を行うための、そしてギドにとっては失われた輝きを取り戻す新天地を探すための、最後のチャンスとなる。
個人的な見解
この結末はあまりにも悲劇的であり、同時に極めてプレミアリーグ的。ギド・ロドリゲスという選手の実力を疑う者はいない。彼のインテリジェンス、危機察知能力はワールドクラスだ。しかし、リーグとの相性、監督との巡り合わせという不可抗力が、彼のキャリアに暗い影を落としてしまった。
ヌーノ・エスピリト・サント監督の戦術に彼がフィットしないことは、加入当初から一部の識者が指摘していた懸念点だったが、それが最悪の形で現実となってしまった。
ウェストハムの決断を支持するかと問われれば、私は「イエス」と答える。過去の失敗に固執し、機能しないベテランを抱え続けることほど、クラブの成長を阻害するものはない。早期に見切りをつけ、痛みを伴う改革を断行する姿勢こそが、激戦のプレミアリーグを生き抜くためには不可欠。
ギドにとっても、これ以上ロンドンのベンチで時間を浪費するのは無益。彼のスタイルが評価されるラ・リーガやセリエAに復帰すれば、再びあの中盤の支配者としての姿を見せてくれるはず。
この別れは、双方にとっての前進であると信じたい。1月の移籍市場が、彼らのキャリアにおける正しい分岐点となることを願ってやまない。
