北ロンドンに冷たい風が吹き荒れているのは、気候のせいだけではない。かつてアーセナルの右サイドを支配し、その圧倒的な稼働率と安定感でミケル・アルテタの戦術基盤を支えてきたベン・ホワイト。
彼の周囲に漂う不穏な空気は、冬の移籍市場の接近とともに無視できない濃度へと達した。英『TEAMtalk』が報じた内容は、ガナーズのサポーターにとって悪夢のようなシナリオを含んでいる。
絶対王者マンチェスター・シティがホワイトの獲得を画策し、選手自身も現状に強い不満を抱いているというのだ。プレミアリーグの覇権を争う直接のライバル間での引き抜き工作。これが実現すれば、パワーバランスを一気に崩壊させかねない劇薬となる。しかし、アーセナル首脳陣はこの動きを断固として阻止する構えを見せている。
出場機会の激減が招いた亀裂と、マンチェスター・シティの狡猾な狙い
事の発端は明確。今シーズン、ベン・ホワイトの序列は明らかに低下した。ユリエン・ティンバーが完全復活を遂げ、リッカルド・カラフィオーリら新戦力が最終ラインに新たなダイナミズムをもたらす中、かつての不動の右SBはローテーションの一角へと追いやられた。
イギリス人ジャーナリストのグレアム・ベイリー氏が伝えた情報によれば、ホワイトはこの現状に強い苛立ちを募らせている。ピッチ上で常に最適解を選び続けてきた男にとって、ベンチから戦況を見つめる時間は拷問に等しい。彼のフットボールに対する姿勢は常にストイックであり、プレータイムの確保こそがプロとしての生命線だと理解しているからだ。
この心の隙間を、マンチェスター・シティが見逃すはずがない。ジョゼップ・グアルディオラという指揮官は、常に完璧なパズルを完成させるためのラストピースを探している。カイル・ウォーカーが去った後の後継者が定着していない中、センターバックとサイドバックをハイレベルで兼任し、ビルドアップ時に中盤的なタスクまでこなせるホワイトは、シティにとって喉から手が出るほど欲しい人材。
ボール保持時の冷静さ、対人守備の強度、そして何よりアルテタの下で培ったポジショナルプレーへの深い理解は、シティへの適応期間を限りなくゼロにするだろう。ライバルの戦力を削ぎ、自軍の穴を完璧に埋める。これほど効率的で、かつ残酷な補強プランは他にない。
アルテタが敷く絶対防衛線と、1月移籍市場のリアリズム
だが、ミケル・アルテタとアーセナル首脳陣の回答は「NO」だ。それも、交渉の余地を含まない完全な拒絶である。ベイリー氏の情報源によれば、クラブは1月の移籍市場でホワイトを放出する意思を微塵も持っていない。
これには明確な戦略的理由が存在する。タイトルレースが佳境を迎えるシーズン後半戦において、守備陣の層の厚さはそのまま勝ち点に直結する。特に年末年始の過密日程や、春先のチャンピオンズリーグを見据えれば、ホワイトクラスの実力者を失うことは自殺行為に等しい。たとえ彼が現在不満を抱いていたとしても、怪我人が一人出れば即座にワールドクラスの穴埋めが可能であるという事実は、アーセナルにとって計り知れないアドバンテージなのだ。
過去、サミル・ナスリやエマニュエル・アデバヨール、ガエル・クリシーといった主力たちがマンチェスター・シティへと流出し、そのたびにアーセナルは弱体化の憂き目に遭ってきた。ガブリエル・ジェズスやオレクサンドル・ジンチェンコを迎え入れた近年とは異なり、今度は自軍の要を奪われる側に戻るなど、復権を果たした現在のアーセナルには許されない屈辱。
アルテタは、かつての師であるグアルディオラに対し、安易に戦力を供給するような真似は決してしない。ホワイトの不満がどれほど高まろうとも、契約という鎖と優勝への大義名分を用いて、少なくとも今シーズン終了までは彼をエミレーツに縛り付けるだろう。これは個人の幸福よりも組織の勝利を優先する、ビッグクラブならではの冷徹な判断である。
個人的な見解
アーセナルは、たとえベン・ホワイトがトランスファーリクエストを提出したとしても、この冬にマンチェスター・シティへ売却することは絶対に避けるべき。
これは戦術論以前の、クラブとしての「格」の問題である。タイトルを争う直接のライバルに、戦術的に最も重要なエリアをカバーできる選手を渡すなど、狂気の沙汰としか思えない。かつてロビン・ファン・ペルシーをマンチェスター・ユナイテッドに放出し、優勝を決定づけられたあの悪夢を繰り返してはならない。
また、ホワイト自身にとっても、安易なシティ行きが正解だとは言い切れない。確かにグアルディオラの戦術は魅力的だが、シティの選手層もまた分厚く、競争が激しいことに変わりはない。出場機会を求めて移籍した先で、再びローテーションの波に飲まれる可能性は十分に考えられる。
それよりも、今直面しているアーセナルでの競争に打ち勝ち、再び定位置を奪還することこそが、彼のキャリアをより強固なものにするはず。リーズ・ユナイテッドでの激しい昇格争い、ブライトンでの躍進、そしてアーセナルでの重圧を跳ね除けてきた反骨心の塊。
アルテタには、彼のプライドを刺激し、その怒りをピッチ上のエネルギーへと変換するマネジメント能力が問われている。この冬の移籍市場、最大の勝負は「誰も獲らないこと」ではなく、「誰も出さないこと」にあると私は確信している。
