ギェケレシュの影で牙を研ぐ背番号 “9” ガブリエル・ジェズス放出論を一蹴するアルテタ

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ウェストハムとエヴァートンが、アーセナルで放出候補のガブリエウ・ジェズスに注目か!? Arsenal

北ロンドンの空は鉛色に沈んでいるが、エミレーツ・スタジアムを包む熱気は、かつてないほどの高まりを見せている。プレミアリーグの折り返し地点を前に首位を独走し、チャンピオンズリーグのリーグフェーズにおいても他を寄せ付けない圧倒的な強さでトップに君臨する。

ミケル・アルテタ監督率いるアーセナルは今、黄金期の入り口に立っている。だが、順風満帆に見えるこの船にも、冬の移籍市場という名の荒波が押し寄せようとしている。その波紋の中心にいるのは、長く苦しいリハビリ期間を経て、ようやくピッチに戻ってきた背番号 “9”、 ガブリエル・ジェズスだ。

スペイン紙『Fichajes』によれば、アルテタにとって、ブラジル人フォワードはただのバックアッパーではなく、後半戦の過密日程を勝ち抜くための「絶対的な切り札」として計算されているようだ。

2026年のワールドカップを控えたジェズス本人が、確実な出場機会を求めて母国ブラジルへの帰還や他クラブへの移籍を画策しているという噂まで飛び交う。しかし、この冬ガブリエル・ジェズスがロンドンを離れることはなさそうだ。

ベルタ改革の結実と「贅沢な悩み」の正体

今シーズンのアーセナルの躍進を語る上で、今年フロント入りしたアンドレア・ベルタの功績を無視することはできない。彼が主導して獲得した8人の新戦力は、チームの骨格を劇的に強化した。

特に前線の層の厚さは、欧州全土を見渡しても屈指のレベルにある。かつては主力数名が欠ければ機能不全に陥っていたチームが、今では誰が出ても質の高いフットボールを展開できる。このスカッドの充実は、CLとPLの二冠という野望を現実的な目標へと押し上げた。

しかし、層が厚くなったからこそ生じる歪みもある。それがジェズスの去就問題。膝の前十字靭帯断裂という悪夢のような大怪我で戦列を離れている間に、ヴィクトル・ギェケレシュが加わった。また、ミケル・メリーノもセンターフォワードとしても活躍しており、カイ・ハヴァーツも控えている。

チャンピオンズリーグのクラブ・ブルージュ戦。ジェズスは後半途中からピッチに立ち、復帰を果たした。彼に与えられた時間は短かったが、その数分間で見せたプレーは、彼が失っていない「何か」を証明するには十分だった。

狭いエリアをこじ開けるドリブル、味方を使う独特のリズム。ギェケレシュが「ハンマー」だとするなら、ジェズスは「メス」だ。異なる質の武器を持つ彼を、アルテタが手放すはずがない。

アルテタの防衛線…1月の放出は「自殺行為」だ

アルテタはジェズスの噂について問われると、迷いなくこう答えた。「そのようなことは一切考えていない。今の我々の状況を見れば明白」。指揮官の言葉には、一片の迷いもない。「ギャビ(ジェズス)がチームにもたらすものは計り知れない。彼がプレー可能になってからの最初の数分間で、すでにその価値を証明してみせたではないか。」

アルテタのこの発言は、外部への牽制であると同時に、ジェズス本人への熱烈なラブコールでもある。フラメンゴやパルメイラスといったブラジルの名門が、英雄の帰還を夢見て好条件を提示しているのは事実だろう。

また、プレミアリーグの中堅クラブが、実績あるストライカーを喉から手が出るほど欲しがっているのも理解できる。だが、アーセナル側から見れば、1月にジェズスを放出するメリットは何一つ存在しない。

後半戦、タイトル争いが佳境に入れば、相手チームはアーセナルの戦術を徹底的に研究し、ギェケレシュへのマークを厳しくしてくる。膠着した展開、引いた相手を崩しきれない焦燥感。そんな時に必要となるのが、戦術の枠組みを個人の閃きで破壊できるジェズスのような存在。

彼は中央だけでなく、左右のウイングとしても機能し、ハヴァーツとポジションを入れ替えながら相手守備陣を混乱の渦に陥れることができる。このポリバレント性は、規律正しいアーセナルのフットボールに不可欠なアクセントなのだ。

さらに、怪我のリスクを忘れてはならない。現在のチーム層は厚いとはいえ、プレミアリーグの強度は並大抵ではない。もしギェケレシュが負傷離脱した場合、ジェズスがいなければ前線のクオリティは著しく低下する。ベルタとアルテタが築き上げたこの強固なチームに、あえて穴を空けるような愚行を犯すほど、今のアーセナルは甘くない。

2026年北中米ワールドカップへの思いが、ジェズスの心を揺さぶっていることは想像に難くない。セレソンの9番を背負うためには、継続的な出場機会とゴールという結果が必要。

しかし、世界最高峰のリーグで首位を走るチームの重要なピースとしてタイトルに貢献することこそが、代表復帰への最も確実なアピールとなるはずだ。アルテタもそれを理解しており、ジェズスに十分な出番を与えるプランを持っているに違いない。

この冬、エミレーツ・スタジアムの扉は固く閉ざされる。ガブリエル・ジェズスは動かない。いや、動かしてはならない。彼の復活の狼煙は、まだ上がったばかりなのだから。

個人的な見解

ヴィクトル・ギェケレシュの破壊力は凄まじく、カイ・ハヴァーツの知性はチームの潤滑油として機能している。スタッツだけを見れば、ジェズスの居場所がないように見えるかもしれない。だが、フットボールは数字だけで行われるものではない。

思い出してほしい。昨シーズン、あるいはその前のシーズン、アーセナルがタイトルレースの最終盤で失速した原因を。それは「プランB」の欠如、あるいは主力の疲弊によるクオリティの低下だった。

ジェズスは、その両方を解決できる唯一無二の存在になり得る。彼がベンチに控えている、あるいはスタメンで相手を撹乱してくれるという事実は、対戦相手にとって恐怖以外の何物でもない。

個人的には、後半戦の重要な局面、例えばCLのノックアウトステージや、シティ、リヴァプールとの直接対決で、ジェズスが決定的な仕事をする予感がしてならない。彼のプレースタイルは、整然とした試合よりも、泥臭く、混沌とした試合でこそ真価を発揮する。

今のアーセナルに必要なのは、綺麗に勝つことだけでなく、どんな形であれ勝ち点を拾う執念。その執念を体現できるのが、南米のストリートで培われたジェズスのハングリー精神なのだ。彼を放出することは、自ら優勝トロフィーを放棄するに等しい。