グラスゴーの鉛色の空の下で、セルティック・パークに集うサポーターたちの吐く息は白い。しかし、彼らの胸中に渦巻くのは、来るべき夏の移籍市場への焦がれるような期待と、クラブの未来を左右する「ある決断」への熱視線。
ピッチ上では絶対的な王者として君臨を続けるセルティックだが、クラブ首脳陣の目はすでに現在の栄光の先、次なる時代の骨格作りへと向けられている。その中心にある最大の懸案事項こそが、長きにわたりゴールマウスを死守してきた英雄、カスパー・シュマイケルの後継者問題。
時計の針は残酷に進み、偉大な守護神にもキャリアの黄昏時は訪れる。だが、感傷に浸る間もなく、クラブは極めて具体的かつ野心的な解決策を見出したようだ。
英『Football Insiderによると、スコットランドの盟主が白羽の矢を立てたのは、イングランド・プレミアリーグの覇者マンチェスター・シティで不遇の時を囲う実力者、ステファン・オルテガだ。契約満了が刻一刻と迫るドイツ人GKの去就は、今まさに水面下で激しい動きを見せ始めている。
世界屈指のGKデパートメントで埋没する才能、ステファン・オルテガが味わう苦渋と確かな実力
マンチェスター・シティというクラブは、時に選手にとってあまりに過酷な鳥籠となる。世界中から最高級の才能を収集し、ペップ・グアルディオラ監督の下で究極のフットボールを追求するこの組織において、競争原理は絶対だ。しかし、現在のステファン・オルテガが置かれている環境は、競争という言葉では片付けられないほどに厳しい。
かつてエデルソンの信頼できるバックアップとして、出場すれば必ず結果を残してきたこの33歳の実力者は今、異常ともいえるGK過多の犠牲となっている。
巨額の資金で補強されたジャンルイジ・ドンナルンマが正守護神として君臨し、その脇をイングランドの未来を背負うジェームズ・トラッフォードが固める。さらに経験豊富なマーカス・ベッティネッリまでもが控える陣容の中で、オルテガの席次はまさかの4番手にまで転落した。ベンチ入りすらままならない現状は、彼の実績と能力を考えれば飼い殺しと表現しても過言ではない。
だが、ピッチに立てない日々が続いたとしても、彼の価値が錆びつくことはない。アルミニア・ビーレフェルトから2022年7月にシティへ加わって以来、彼は公式戦50試合以上に出場し、その半数にあたる25試合でクリーンシートを達成してきた。
特筆すべきは、至近距離からのシュートに対する驚異的な反応速度。1対1の場面で見せる、手足を大きく広げてコースを消す独特のセービングスタイルは、幾度となくチームの危機を救ってきた。さらに、シティのGKに必須とされる足元の技術も一級品。激しいプレッシャーの中でも涼しい顔でパスを繋ぎ、攻撃の第一歩となれる彼の能力は、プレミアリーグのどのクラブでもスタメンを張れる水準にある。
2026年夏に満了を迎える契約は、彼にとって解放へのカウントダウン。昨夏の移籍市場でもトラブゾンスポルなどが獲得を画策した経緯があるが、来たるべき夏、移籍金のかからないボスマンプレーヤーとして、自身の価値を正当に評価するクラブを自由に選ぶ権利を手にする。その最有力候補として名乗りを上げたのが、GKの刷新を急務とするセルティックである。
シュマイケル時代の黄昏とセルティックが求めるモダンフットボールのラストピース
セルティックがオルテガに固執する背景には明確な戦術的意図と、チームサイクルの必然が存在する。現在ゴールを守るカスパー・シュマイケルは、レスター・シティでの奇跡を知るリビングレジェンドであり、そのキャプテンシーと経験値は計り知れない。しかし、39歳に近づく彼の肉体が、トップレベルの反射神経を維持し続けるには限界があることもまた事実。
現代フットボールにおいて、ゴールキーパーは「11人目のフィールドプレーヤー」としての役割を強く求められる。特に国内リーグで圧倒的なボール支配率を誇るセルティックにおいて、GKはビルドアップの始点となり、相手のカウンターの芽を摘むスイーパー的な役割もこなさなければならない。
シティで世界最高峰の戦術眼を叩き込まれたオルテガは、まさにこの役割を担うための理想的な人材だ。彼ならば、シュマイケルが築き上げた安定感を継承しつつ、チームの攻撃構築をもう一段階上のレベルへと引き上げることができる。
セルティック以外にもセリエAの強豪インテル・ミラノなどがオルテガに関心を寄せているという。インテルもまた、GKのタレントを見極める眼力には定評があるクラブだ。アンドレ・オナナの例を見るまでもなく、彼らが目を付けたGKは間違いなくワールドクラスのポテンシャルを秘めている。
しかし、セルティックには絶対的な正守護神の座という切り札がある。4番手としてスタンドから試合を眺める屈辱を味わってきたオルテガにとって、チャンピオンズリーグという最高の舞台で、熱狂的なサポーターを背に毎週ピッチに立てる環境は何物にも代えがたい魅力として映るはず。
財政面においても、この獲得プランは理にかなっている。移籍金ゼロでワールドクラスのGKを確保できれば、浮いた予算を他のポジションの強化に回すことができる。セルティックの強化部にとって、オルテガのボスマン獲得は、リスクを最小限に抑えつつチーム力を最大化する黄金のシナリオなのだ。
あと数週間、年が明ければ海外クラブとの事前交渉が解禁される。セルティックは速やかにアプローチを開始し、この不遇の実力者をグラスゴーへと誘う準備を整えている。
個人的な見解
ステファン・オルテガという傑出したタレントが、マンチェスター・シティの分厚い選手層の陰で飼い殺しにされている現状は、フットボールファンとして見るに堪えない。
ドンナルンマやトラッフォードといった名前が並ぶシティのGKリストは確かに豪華絢爛だが、オルテガが持つ「静かなるリーダーシップ」と「モダンな足元の技術」は、ベンチやスタンドで腐らせていいものではないのだ。
自身を必要とし、毎試合ピッチに送り出してくれるクラブが必要だ。そして、その舞台としてセルティック以上の場所はないと私は確信している。
セルティック・パークの独特な雰囲気、そして「勝つことが義務」とされるプレッシャーは、並大抵の精神力では耐えられない。だが、シティで数々のタイトル獲得を肌で感じ、極限の緊張感の中でプレーしてきたオルテガならば、シュマイケルの後継者という重圧も軽々と跳ね返すだろう。
むしろ、そのプレッシャーこそが、飢えた彼を再び輝かせるための燃料となるはずだ。インテルなどの競合は手強いが、セルティックはなりふり構わず彼を口説き落とすべき。
この移籍が実現すれば、セルティックが欧州の舞台で再び躍進するためのラストピースが埋まる瞬間となる。ジョー・ハートがかつてそうであったように、イングランドで実績のあるGKがグラスゴーで愛され、伝説となる系譜を、オルテガが継ぐ姿を私は見てみたい。
