冷え込みの厳しいマンチェスターの冬空の下、かつてイングランド全土を熱狂させた「ヨークシャーのピルロ」の姿は、ピッチ上のどこを探しても見当たらない。30歳の誕生日を迎えたばかりのカルバン・フィリップスは、フットボーラーとして最も脂が乗っているはずの時期を、エティハド・スタジアムのスタンドあるいはベンチの片隅で浪費している。
マルセロ・ビエルサ監督によってその才能を開花させ、EURO2020ではデクラン・ライスと共に「スリーライオンズ」の中盤に鍵をかけた男の現在は、あまりにも寂しく、そして残酷。マンチェスター・シティという巨大なシステムの歯車になろうとして砕け散った彼は、今、自らのキャリアを救うための最後にして最大の決断を下そうとしている。
イングランド・プレミアリーグという華やかで残酷な舞台から降り、欧州大陸の新天地へ活路を見出すこと。それこそが、止まってしまった時計の針を再び動かす唯一の方法。
ペップ・グアルディオラの構想から完全に消滅した理由と7分間の屈辱
4200万ポンドという巨額の移籍金でリーズ・ユナイテッドから加入した際、多くのファンはロドリとのハイレベルな競争、あるいは共存を夢見ていた。だが、ペップ・グアルディオラという完璧主義者が求める戦術的規律と、カルバン・フィリップスが持つ本能的なプレースタイルとの溝は、想像以上に深かった。
さらに事態を悪化させたのは、昨シーズンのイプスウィッチ・タウンへのローン移籍の失敗。昇格組であるイプスウィッチでの挑戦は、環境を変えることでかつてのリズムを取り戻す絶好の機会だった。しかし、そこでも彼は違いを作れなかった。
ウェストハムでの悪夢のような半年間に続き、イプスウィッチでも定位置を確保できなかった事実は、彼の評価を決定的に暴落させた。プレミアリーグの中位・下位クラブですら輝けない選手を、世界王者が重用するはずがない。
今シーズン、マンチェスター・シティに戻った彼を待っていたのは、冷徹なまでの無視だった。リーグ戦も折り返し地点に近づいている12月時点で、彼に与えられた出場時間はわずか7分。これはもはや戦力としての扱いではなく、契約が存在するがゆえの事務的な処置に近い。
グアルディオラの中で彼は透明人間と化しており、トレーニンググラウンドでのアピールも虚しく響くだけだ。英『Football Insider』のピート・オルーク氏が報じるところによれば、クラブ側は1月の移籍市場での放出を完全に容認しており、完全移籍であれローン移籍であれ、彼を送り出す準備を整えている。
かつての古巣リーズ・ユナイテッドへの復帰説も浮上しては消えた。サポーターの中には放蕩息子の帰還を望む声もあったが、リーズ首脳陣は冷静。現在のチームに30歳の、しかも試合勘を失った高給取りの居場所はない。かつての英雄が、今は必要とされていないという事実は、カルバン・フィリップス本人にとって鋭い刃物のように突き刺さるだろうが、これがプロフットボールの厳正な評価だ。
プレミアリーグ決別宣言、欧州大陸に求める「再生」の地
国内での選択肢が次々と消え失せる中、カルバン・フィリップスの視線は必然的にドーバー海峡の向こう側へと向けられている。これまで彼はイングランド国内でのプレー、プレミアリーグへの残留に拘ってきたが、その拘りこそが、復活を阻む足枷になっていたことは否めない。同じリーグにいれば、どうしても過去の自分と比較され、メディアからの容赦ない批判に晒され続ける。
ピート・オルーク氏は、カルバン・フィリップスの現状について「1月の移籍市場でマンチェスター・シティを離れ、再びピッチに立つ必要がある」と断言した上で、海外移籍の可能性を強く示唆している。多くの欧州クラブが元イングランド代表MFの獲得に興味を示しており、特にローンでの獲得はリスクを抑えたいクラブにとって魅力的なオプションとなる。
プレミアリーグ特有の狂気的なプレースピードとフィジカルコンタクトから一度離れることで、彼は自身の最大の武器である配球能力と戦術眼を再構築できる可能性がある。セリエAのような戦術的な駆け引きを重視するリーグ、あるいはブンデスリーガのような規律の中にスペースを見出せるリーグであれば、彼のパスレンジは再び輝きを取り戻すかもしれない。
ルベン・ロフタス=チークやフィカヨ・トモリ、タミー・エイブラハムといった同胞たちが、イタリアの地でキャリアを再生させ、再び評価を高めた前例は、カルバン・フィリップスにとって大きな希望の光だ。
30歳からの海外挑戦は、言語や文化の壁、生活環境の激変など、適応へのリスクは当然伴う。しかし、シティのベンチで腐り続けること以上のリスクなど、この世には存在しない。彼に必要なのは、週給の保証された安住の地ではなく、泥にまみれてボールを追いかけることのできる闘争の場となる。
マンチェスター・シティとの契約を2028年まで残している。あと2年半もの間、高給を受け取りながら飼い殺しにされる未来を選ぶのか、それとも減俸を受け入れてでもフットボーラーとしての尊厳を取り戻すのか。
オルーク氏の情報が正しければ、彼は後者を選ぶ覚悟を決めている。イングランド代表への復帰などという大それた目標を掲げる段階ではない。まずは、週末のメンバー表に自分の名前が載り、90分間ピッチに立ち続けること。その当たり前の日常を取り戻すために、彼は海を渡る。
個人的な見解
カルバン・フィリップスというフットボーラーのキャリア曲線を見つめるとき、我々は現代サッカーにおける移籍の魔力とシステムの非情さを痛感せずにはいられない。ビエルサの下で「ヨークシャーのピルロ」と崇められた彼は、間違いなくワールドクラスのポテンシャルを秘めていた。
あの長髪をなびかせ、中盤の底から放たれるレーザービームのようなパスは、見る者の魂を揺さぶる美しさがあった。だが、ペップ・グアルディオラという稀代の戦術家との出会いは、悲劇的なミスマッチに終わってしまった。
イングランドを離れる決断を下すのであれば、それは決して「都落ち」ではない。自らのフットボール人生をあきらめないという、誇り高き抵抗だ。
30歳という年齢は、キャリアの終焉を意味しない。むしろ、酸いも甘いも噛み分けたMFが、その経験を円熟味に変えていくスタートラインだ。イタリアのカルチョの香りがするスタジアムで、あるいはドイツの熱狂的なサポーターの前で、かつてエランド・ロードで見せたあの不敵な笑みを浮かべるカルバン・フィリップスを再び見たい。
マンチェスターの冷たいベンチで凍りついた3年間を溶かす熱量は、まだ彼の右足に残っているはずだ。我々は、彼が再びピッチの中心で指揮棒を振るうその日を、信じて待ち続ける義務がある。
