ロンドンの曇り空を切り裂くような、熱を帯びたニュースが飛び込んできた。華やかなスター選手の名前が踊る冬の移籍市場において、ウェストハム・ユナイテッドの強化部は、実直かつ極めて賢明なターゲットに照準を合わせている。
海外メディア『Africafoot』が報じた独占情報によれば、ハマーズはベルギーのジュピラー・プロ・リーグ、ズルテ・ワレヘムに所属するナイジェリア人MFトチュクウ・ナディの獲得に王手をかけたもようだ。
すでにスカウト陣は幾度となくベルギーへ渡り、この22歳の才能が持つプレミアリーグ基準の資質を見極めた。そして何より、クラブの象徴であり現在はスポーティング・ディレクターとして辣腕を振るうマーク・ノーブル自身が、この取引をまとめ上げるべく準備を進めているという事実は、サポーターの期待を煽るに十分な材料と言える。
華美な装飾を捨て「実用性」を選んだハマーズの決断
2025-26シーズンのプレミアリーグは、かつてないほどのフィジカルコンタクトとトランジションの速度を要求している。その中で、ウェストハムが直面している課題は明確。中盤の強度の維持、そして長いシーズンを戦い抜くための計算できるローテーションの確立である。
そこで浮上したのが、トチュクウ・ナディという名前だ。報道によれば、ウェストハムが提示する条件は移籍金400万ユーロ、契約期間は5年。昨今の移籍金インフレにおいて、この金額は異常なほどに安い。だが、安価であることは品質の欠如を意味しない。むしろ、これはウェストハムのスカウティング部門が、市場価値と実力の乖離を見逃さなかった証拠だろう。
ナディは、いわゆる「モダンなプレーメーカー」ではない。彼がピッチ上で表現するのは、汗と泥にまみれることを厭わない献身性だ。相手の懐に深く入り込むタックル、ルーズボールへの反応速度、そして奪ったボールをシンプルに味方へ預ける判断力。
ズルテ・ワレヘムという、決して強豪とは言えない環境で磨かれたその生存本能こそが、今のウェストハムに欠けている「獰猛さ」を補完する。この移籍話が具体性を帯びている背景には、選手本人の強い意志がある。ナディは今冬の移籍市場でのステップアップを熱望しており、プレミアリーグ挑戦に対して一切の躊躇を見せていない。
ベルギーリーグはこれまでも、アマドゥ・オナナやロメオ・ラヴィアといった、後にプレミアで大金を動かすタレントを輩出してきた守備的MFの聖地とも言えるリーグ。その系譜に連なるナディが、ロンドン行きのチケットを掴もうとするのは自然な流れであり、ウェストハムにとっても、競合他クラブが気づく前に「青田買い」を成功させる絶好の機会となる。
マーク・ノーブルSDが描く「労働者階級」の復権
この取引の背後にマーク・ノーブルの影が見え隠れすることは、戦術的な適合以上に重要な意味を持つ。現役時代、ミスター・ウェストハムとして中盤の底で体を張り続けた彼が、自身の後継者候補としてナディを選んだという文脈は無視できない。
ノーブルSDは、単にデータ上の数値が良い選手を探しているのではない。ロンドン・スタジアムの厳しいサポーターが、どのような選手に拍手を送るか。それを肌感覚で理解している彼が、「こいつならやれる」と踏んだのだ。
ナディの広範囲をカバーする走力と、デュエルにおける強さは、ヌーノ・エスピーリト・サントギの戦術を底上げする重要なピースとなり得る。特に、年末年始の過密日程を控え、疲労が蓄積する主力に代わって、フレッシュかつハングリーな若武者がピッチを駆け回る姿は、チーム全体に活力を注入するはず。
また、財政的な健全性を重視するプレミアリーグのPSR(収益性と持続可能性に関する規則)の観点からも、400万ユーロでの補強は賢明極まりない。巨額の資金を投じて失敗した際のリスクを最小限に抑えつつ、成功すれば数年後に数倍の価値を生み出す投資。
ウェストハムは、かつてエンゴロ・カンテがフランスからひっそりとレスターにやってきた時のような、「発見」の興奮を再現しようとしている。ナディがベルギーで培った実力が本物であれば、この冬の取引は、数年後に “2025年最高のバーゲン” として語り草になるだろう。
個人的な見解
私は、このトチュクウ・ナディ獲得の動きを全面的に、そして熱烈に支持する。正直に言えば、近年のプレミアリーグの移籍市場には辟易していた。実績だけで判断され、法外な金額が飛び交うマネーゲームには、ロマンの欠片も感じられないからだ。
その中で、ウェストハムが400万ユーロという、現代フットボールにおいては端金とも言える金額で、ベルギーの才能を引き抜こうとしている姿勢には、クラブとしての気概とスカウトへの絶対的な信頼を感じる。
ナディのプレーには、かつてのプレミアリーグにあった無骨さがある。綺麗なパスを通す選手は今の時代いくらでもいるが、相手の攻撃の芽を摘み、味方のために汗をかける選手は希少。マーク・ノーブルが彼を選んだ理由はそこにあるはずだ。テクニックではなく、ハートの強さ。
ウェストハムのファンは、華麗なヒールパスよりも、決定的なピンチを防ぐスライディングタックルにこそ最大の歓声を送る人種だ。ナディは間違いなく、その期待に応えうるメンタリティを持っている。
もちろん、ベルギーとイングランドではプレースピードが異なるため、適応には時間を要するかもしれない。だが、5年契約という長さが示す通り、クラブは彼を即席の戦力としてだけでなく、長期的なプロジェクトの核心として捉えている。
もし彼がロンドンの水に馴染み、そのポテンシャルを爆発させれば、ウェストハムの中盤は向こう5年間、安泰となるだろう。「無名の若手が、スター選手を弾き飛ばして定位置を掴む」。そんな痛快な下克上が見られる予感に、私は今、猛烈にワクワクしている。
ウェストハム・ユナイテッドよ、迷うことはない。この22歳MFを何としても確保せよ。
