冷え込む12月のマンチェスターだが、オールド・トラッフォードの強化部、その奥にある作戦室の熱気は最高潮に達している。ピッチ上での激闘が続く2025-26シーズン半ば、視線はすでにその先、2026年の夏を見据えているからだ。
かつての「パニックバイ」を排除し、緻密な計画に基づいた補強戦略へと舵を切った赤い悪魔。彼らが描く次なる青写真の中心に、ブンデスリーガで異彩を放つ一人のディフェンダーがいる。ボルシア・ドルトムントの守備の要、ニコ・シュロッターベックだ。
現代フットボールにおいて希少種とされる左利きのセンターバック、それも世界屈指の実力者を確保しようとする動きは、具体的な獲得プランとして実行フェーズに入りつつある。
希少価値高まる左利きの司令塔、シュロッターベックがマンチェスター・ユナイテッドにもたらす戦術的革命
英『TEAMtalk』のフレイザー・フレッチャー記者の報道は、マンチェスターの水面下に巨大な波紋を広げた。2026年の獲得最優先候補としてシュロッターベックの名が挙がった事実は、ユナイテッドが目指す戦術的な到達点を明確に示している。
現在のユナイテッド守備陣において、リサンドロ・マルティネスという絶対的な「闘犬」が存在感を放っているが、過密日程が常態化するプレミアリーグにおいて、彼一人のクオリティに依存するのはあまりにリスクが高い。
ましてや、最終ラインからのビルドアップを生命線とする現代サッカーにおいて、左サイドから精度の高いボールを配給できるセンターバックは、チームの心臓そのもの。
シュロッターベックの特筆すべき能力は、センターバックという枠組みを超越した攻撃性能にある。彼がドルトムントで見せているパフォーマンスは、まさに後方のプレイメーカー。相手のハイプレスを無効化する冷静な持ち運び、前線のウイングの足元へピタリとつけるグラウンダーの縦パス、そして一気に局面をひっくり返す対角線へのロングフィード。
これらは、ユナイテッドが強豪相手に主導権を握るために不可欠なピースとなる。特に、彼のアグレッシブな守備スタイルは、オールド・トラッフォードのサポーターが最も好む血の通ったプレーと言える。プレミアリーグ特有の激しいフィジカルコンタクトや、トランジションの速さにも即座に適応できる身体能力を彼はすでに備えている。
また、2026年というターゲットイヤーは、チームの世代交代を完遂させる上でも重要な意味を持つ。ハリー・マグワイアといったベテラン勢の去就が不透明になる中、全盛期を迎える26歳のシュロッターベックを加えることは、向こう5年間のディフェンスリーダーを確保することと同義。
マタイス・デ・リフトやレニー・ヨロといった右利きの実力者とコンビ、あるいは3バックの一角を組ませることで、左右のバランスが整い、パスコースの選択肢は幾何学的に増大する。彼を獲得できるか否かは、ユナイテッドが真の復権を果たせるかどうかの分水嶺となると言っても過言ではない。
ドルトムントを襲う財政の波と、5000万ポンドという現実的な「身代金」
この移籍劇を加速させる最大の要因は、皮肉にもピッチ外にある。ドイツの名門ボルシア・ドルトムントが直面している財政的な圧迫。近年の大型補強やスタジアム改修、さらには欧州コンペティションでの収益変動が、クラブの金庫に重くのしかかっている。
彼らにとって、「安く買って高く売る」というビジネスモデルは生存戦略そのものであり、主力選手の売却益で帳尻を合わせる手法はもはや伝統芸とも化している。同紙が報じた5000万ポンドという金額は、ドルトムントが喉から手が出るほど欲しい即金であり、同時にユナイテッドにとっては十分に支払い可能な額。
契約期間の兼ね合いも、このタイミングでの移籍を後押しする。2027年で契約が満了となるシュロッターベックに対し、ドルトムントは2026年夏が「売り時」のラストチャンスとなる。これ以上引き延ばせば、足元を見られて買い叩かれるか、最悪の場合はフリーで流出するという悪夢が待っている。
バイエルン・ミュンヘンへフリーで移籍したロベルト・レヴァンドフスキの二の舞だけは絶対に避けたいというのがドルトムント首脳陣の本音。だからこそ、5000万ポンドという適切なオファーが届けば、彼らは抵抗することなく扉を開くだろう。
マンチェスター・ユナイテッドにとって、この5000万ポンドは極めてコストパフォーマンスの高い投資となる。近年の移籍市場におけるディフェンダーのインフレ化を考えれば、ヨシュコ・グヴァルディオルやウェズレイ・フォファナに費やされた金額と比較しても、シュロッターベックの価格はバーゲンに近い。
ブンデスリーガで磨かれた鉄壁の守備力と、チャンピオンズリーグという大舞台での経験値を併せ持つ20代中盤の左利きCBを、この価格で手に入れられる機会はそうそう訪れない。ドルトムントの苦境は、ユナイテッドにとっての好機。冷徹なビジネスの論理が、ドイツの防壁を赤い要塞へと移送させる準備を整えている。
個人的な見解
この移籍、絶対に成立させるべきだ。強くそう思う。マンチェスター・ユナイテッドにおける「左利きのセンターバック」の層の薄さに対する危惧。リサンドロ・マルティネスはワールドクラスだが、彼の負傷離脱時にチームのビルドアップが機能不全に陥る様を我々は嫌というほど目撃してきた。
ルーク・ショーを急造CBとして使うスクランブル体制も限界がある。そこにニコ・シュロッターベックという、マルティネスとはまた異なるスケール感と強さを持った選手が加わる。これはバックアップの確保ではない。チームの背骨を太くし、戦術の幅を劇的に広げる本物の補強となる。
5000万ポンドという金額についても触れておきたい。昨今のプレミアリーグにおいて、この金額は中堅選手にすら支払われる額だ。それを、ドイツ代表のレギュラークラスに投じることができるなら、迷う理由はどこにもない。
ドルトムントとの過去の取引――香川真司、ヘンリク・ムヒタリアン、ジェイドン・サンチョ――を振り返り、「ブンデスリーガからの適応」に懐疑的な目を向ける者もいるかもしれない。
だが、シュロッターベックのプレー強度やメンタリティを見る限り、彼はプレミアの水に馴染むどころか、即座にリーグ屈指のDFとして君臨するポテンシャルを秘めている。ユナイテッドが本気で覇権奪還を狙うなら、2026年の夏を待たずして、今すぐにでも手付金を支払うべき案件だと断言する。
