グアルディオラの一言が全てを物語っていた。サビーニョの去就について問われた時、世界最高の戦術家が放った「わからない」という答えは、移籍市場の残酷な現実を如実に表した。トッテナムにとって、7000万ポンドという移籍金は数字以上の意味を持つ。それはクラブの哲学と現実的戦略の狭間で揺れ動く、重要な決断の分水嶺なのだ。
英『The Independent』が報じたところによると、スパーズはマンチェスター・シティのブラジル人ウィンガー、サビーニョの高額な移籍金を受けて、ASモナコの攻撃的ミッドフィールダー、マグネス・アクリウシュに注目を向けている。
21歳のサビーニョに対してシティが要求する7000万ポンドの移籍金は、トッテナムの財政状況では到底受け入れ難い金額だった。一方、23歳のアクリウシュなら5500万ユーロで獲得可能とされ、現実的な選択肢として急浮上している。
ヨーロッパリーグ制覇という歴史的偉業を成し遂げたトッテナムだが、キャプテンのソン・フンミンがLAFCへ旅立ち、ジェームズ・マディソンがACL断裂で長期離脱という二重の打撃を受けている。攻撃陣の大幅な再構築が急務となる中で、アクリウシュという選択肢は戦術的にも経済的にも理にかなった判断といえる。
サビーニョ争奪戦の舞台裏とシティの強気姿勢
サビーニョを巡る状況は、現代サッカーの移籍市場が抱える複雑さを象徴している。昨シーズン、プレミアリーグ29試合で1ゴール8アシストを記録した若きブラジル人は、確かに将来性豊かな逸材だ。しかし、シティでの立ち位置を考えれば、その移籍金設定には疑問符が付く。
ジェレミー・ドク、フィル・フォーデン、ラヤン・シェルキ、オマル・マーモウシュ、オスカー・ボブといった才能あふれる選手たちがひしめくシティのウィング陣で、サビーニョが安定したポジションを確保するのは容易ではない。グアルディオラ自身も選手の将来について明言を避けており、この状況がトッテナムの戦略転換を後押ししている。
2024年にトロワから加入したサビーニョは、昨シーズン3000分以上の出場時間を得たものの、グアルディオラが指摘するように最終的な判断力にはまだ改善の余地がある。パレルモとの親善試合で負傷し、ウルブズ戦を欠場したことも、移籍の可能性を高める要因となっている。
「選手の希望が何よりも優先される。その後、選手はクラブと合意に達する必要がある。合意に達しなければ、クラブがその選手に投資したのだから、選手はここに残ることになる」というグアルディオラの発言は、シティの立場を明確に示している。
アクリウシュという現実解が示すスパーズの成熟
マグネス・アクリウシュは、トッテナムにとって理想的な獲得候補。昨シーズン、リーグ・アンで全試合通して7ゴールを記録し、今シーズン開幕戦のル・アーブル戦(3-1勝利)でも得点を挙げるなど、コンスタントな得点力を持つ23歳は即戦力として期待できる。
モナコでの実績も申し分ない。2023-24シーズンには8ゴール4アシストを記録し、昨シーズンは7ゴール12アシストと創造性も向上させている。左足の技術力と両翼での起用可能性、さらにはカウンターアタックでの推進力など、現代的なウィンガーが求められる要素を全て兼ね備えている。
トッテナムが同時に追求するクリスタル・パレスのエベレチ・エゼとの獲得競争も、アクリウシュという選択肢の存在で戦略的な余裕を生み出している。マディソンのACL断裂による長期離脱とソン・フンミンのLAFC移籍により、攻撃陣の補強は急務となっており、アクリウシュの獲得は理想的な代替案。
5500万ユーロという移籍金も、現在の市場価格を考慮すれば妥当な水準。バイエル・レバークーゼンやマンチェスター・ユナイテッドも関心を示しているが、チャンピオンズリーグ出場権を得たトッテナムには十分な競争力がある。特に、5月にビルバオでヨーロッパリーグ制覇を果たした実績は、野心的な選手にとって魅力的な要素となる。
個人的な見解
今回のトッテナムの戦略転換は極めて理性的な判断だと評価している。サビーニョという才能は魅力的だが、70億円という移籍金はシティの強気な姿勢の表れであり、実際の市場価値を大きく上回っている。特に、シティ内での競争を考慮すれば、安定した出場時間の確保すら疑問視される状況で、この金額を支払うリスクは大きすぎる。
一方、アクリウシュは年齢、実績、ポテンシャル、そして移籍金のバランスが取れた理想的な獲得候補だ。23歳という年齢は即戦力としての期待と将来性を両立しており、リーグ・アンでの安定した成績は適応力の高さを物語っている。
何より、5500万ユーロという移籍金は現実的な投資として妥当であり、失敗した場合のダメージも限定的だ。
トッテナムが真の競争力を持つクラブへと成長するためには、こうした現実的で計算された移籍戦略が不可欠となる。感情的な大型補強よりも、戦術的フィットと費用対効果を重視したアプローチこそが、持続可能な成功への道筋を示している。
ヨーロッパリーグ制覇という成功体験を土台に、アクリウシュの獲得が実現すれば、それはスパーズが新たなステージに到達した証明となるはずだ。フランク監督の戦術眼と相まって、この移籍が成功の起点となることを期待している。