ルベン・アモリム監督にとって、これほど苦い夏はないかもしれない。かつてスポルティングCPで手塩にかけて育て上げた愛弟子、モルテン・ヒュルマンドとの夢の再会が、ついに幻と消えた。マンチェスター・ユナイテッドが今夏の移籍市場で最も熱視線を送っていたデンマーク代表MFの獲得を正式に断念したのだ。
ポルトガル紙『Correio da Manha』の報道によると、スポルティングCP会長のフレデリコ・バランダス氏がヒュルマンドの今夏放出を完全拒否。これを受けてアモリム監督も遂に諦めを決断した。オールド・トラッフォードでの師弟コンビ復活という美しいストーリーは、現実の壁に阻まれることとなった。
ヒュルマンドが築いた圧倒的な存在感
26歳のヒュルマンドがスポルティングCPで築き上げた存在感は、代替不可能なレベルに到達している。2023年8月にUSレッチェから1800万ユーロで移籍してきた当初こそ未知数だった左利きのアンカーは、アモリム戦術の心臓部として機能し、わずか2年足らずでクラブキャプテンの座まで手にした。
データが証明するヒュルマンドの価値は圧巻だ。スポルティングCPでの公式戦出場数は既に100試合に迫り、8ゴール6アシストという攻撃面での貢献も記録している。
しかし、真の価値は数字では測れない部分にある。185cmの体躯から繰り出される精密なロングパス、相手の攻撃の芽を摘む読みの良さ、そして何より試合全体を俯瞰してチームメートを導くリーダーシップ。これらすべてがアモリム監督の理想とするサッカーの具現化だった。
デンマーク代表でも不動のレギュラーとして君臨し、UEFA EURO 2024でも中心選手として活躍。2024年にはデンマーク年間最優秀選手賞を受賞するなど、ヒュルマンドの市場価値は、スポルティングCPにとって手放すことのできない水準まで高騰している。
マンUの中盤再建計画に立ちはだかる現実
マンチェスター・ユナイテッドにとって、ヒュルマンド獲得断念は一選手の移籍失敗を超えた深刻な意味を持つ。カゼミーロの年齢的な衰えとマヌエル・ウガルテの不安定なパフォーマンス、さらにはクリスティアン・エリクセンの退団により、中盤の底でゲームをコントロールできる選手の不在が深刻化しているからだ。
当初の第一候補だったブライトンのカルロス・バレバも今夏の移籍を拒否されており、アモリム監督の構想する中盤再建は既に二度の挫折を味わっている。プレミアリーグの激戦を戦い抜くには、フィジカルとテクニックを兼ね備えた真のホールディングミッドフィルダーが不可欠だが、その獲得は想像以上に困難を極めている。
特にアモリム監督のサッカー哲学を体現できる選手となると、選択肢は極端に狭まる。ポゼッション重視でありながら、激しいプレッシャーにも対応できる現代的なアンカーは、欧州全体を見渡しても数える程しか存在しないのが現実だ。
個人的な見解
この夏の移籍市場におけるマンチェスター・ユナイテッドの動きを見ていると、現代サッカーにおける中盤の重要性と、適材を見つけることの困難さを改めて痛感させられる。
ヒュルマンドほど完璧にアモリム監督の戦術にフィットする選手を見つけることは、今後も至難の業となるだろう。スポルティングCPがこれほどまでに頑なに選手を手放さない背景には、金銭的価値を超えた戦術的価値があることを、バランダス会長は十分に理解している。
今回の一件は、プレミアリーグのビッグクラブといえども、欲しい選手を必ずしも獲得できるわけではないという現実を如実に示している。
アモリム監督は次の標的を見定める必要があるが、ヒュルマンドレベルの選手となると、移籍金は恐らく7000万ユーロを超える水準になるはずだ。果たしてマンチェスター・ユナイテッドがそこまでの投資を決断できるのか、そして真にチームを変革できる中盤の核を見つけられるのか。この夏の残り期間が極めて重要な意味を持つことになりそうだ。
