ジャンルイージ・ドンナルンマの運命が、ついに決まろうとしている。8月中旬にPSGからの退団濃厚となっていた世界最高峰のゴールキーパーを巡り、マンチェスター・シティが最終的な移籍先として浮上した。
契約残り1年という立場の弱さに加え、ルカス・シュヴァリエ獲得によってパルク・デ・プランスでの居場所を完全に失ったドンナルンマにとって、もはや選択の余地はない状況となっている。
ドンナルンマ移籍を阻む最後のハードル、エデルソンの去就
しかし、この大型移籍が成立するためには、決定的な条件がひとつ残されている。それは現在シティでファーストチョイスを務めるエデルソンの放出だ。
ガラタサライがブラジル代表ゴールキーパーに熱視線を送り、すでに個人契約では合意に達しているとされる。トルコの名門クラブは当初1000万ユーロでオファーを提出したが、シティ側は2500万ユーロを要求。現在も両クラブ間で激しい駆け引きが続いている。
英『The Athletic』のDavid Ornstein氏の報道によると、シティ首脳陣の間には「9月1日の移籍期限ギリギリまで最良の条件を模索する」という雰囲気が漂っている。これは単純に売却益を最大化したいという思惑だけでなく、エデルソンという実績十分な守護神を手放すリスクを慎重に計算している証拠でもある。
シティは今夏バーンリーからジェームズ・トラフォードを再獲得している。22歳の若きイングランド代表候補は、本来であればエデルソンの後継者として期待されていたが、ドンナルンマという世界クラスの選手が手の届く位置に現れたことで、状況は一変することになる。
グアルディオラ戦術への適性、専門家が指摘する致命的な弱点
ところが、この移籍を手放しで歓迎できない理由がある。PSGの内情に精通するジャーナリストが、ドンナルンマの技術的な課題を厳しく指摘しているのだ。
「ライン間での反応速度、決定的な場面でのセーブ能力において、ドンナルンマとティボー・クルトワは世界最高峰に位置する。この点について異論を挟む余地はない」と前置きしながらも、続けてこう警鐘を鳴らした。「ただし、グアルディオラにとって最も重要な要素である足元の技術、ボールディストリビューション能力において、ドンナルンマは明らかに物足りない」
過去にジョー・ハートやクラウディオ・ブラーボが、まさにこの理由でエティハドを去ることになった経緯を振り返れば、この指摘の重みが理解できる。グアルディオラのサッカーにおいて、ゴールキーパーは11番目のフィールドプレーヤーとしての役割を担う。精密なパス回しでビルドアップを主導し、時にはペナルティエリア外まで飛び出してボールを奪取する積極性が求められるのだ。
さらに専門家は、プレミアリーグ特有の課題についても言及している。「クロスボールやコーナーキックへの対応で消極的な姿勢を見せるドンナルンマのスタイルは、イングランドのフィジカルサッカーにおいて致命的な弱点となりかねない」。
実際、マンチェスター・ユナイテッドのアルタイ・バユンドゥルがアーセナル戦で見せたような勇敢な飛び出しこそ、プレミアリーグで生き残るための必須条件と言える。
にもかかわらず、ペップ・グアルディオラ自身がドンナルンマ獲得を強力に後押ししているという事実は見逃せない。カタルーニャの名将が直接選手と会談を重ね、「君の能力があれば、我々のシステムに適応できる」との確信を示しているとされる。
契約面でも、ドンナルンマは週給30万〜35万ポンドという高額報酬を要求しているが、シティ側は「26歳という年齢を考慮すれば、今後10年間チームの核となれる投資」として前向きに捉えている。
PSGでの最後の1年間、特にチャンピオンズリーグ制覇への道のりで見せたパフォーマンスは、まさに神がかり的だった。リバプール戦の16強2ndレグではPK戦でダーウィン・ヌニェスとカーティス・ジョーンズのシュートを連続セーブ。
アストン・ヴィラとの準々決勝では、ヴィラパークでの猛攻を一人で跳ね返し、アーセナルとの準決勝では両レグで計4回の「不可能」とも思えるセーブを連発した。
移籍の成否を握る鍵はエデルソンの動向に委ねられている。ガラタサライとの交渉が週内に決着すれば、ドンナルンマのシティ入りは一気に現実味を帯びる。逆に交渉が長期化すれば、9月1日の移籍期限切れで、この大型移籍は来夏まで持ち越される可能性も否定できない。
個人的な見解
私が最も興味を抱くのは、グアルディオラがこの移籍をどう捉えているかという点だ。足元の技術に課題があることは誰の目にも明らかでありながら、なぜ彼は獲得を強行しようとするのか。
その答えは、おそらくチャンピオンズリーグでのメンタリティにある。シティは過去3年間で2度のCL制覇を果たしたが、決勝トーナメントでの重要な場面において、時としてゴールキーパーのミスが命取りになるケースを経験してきた。
ドンナルンマが昨季のPSGで見せたような、「絶対に決めさせない」という鉄壁の意志力こそ、グアルディオラが求める最後のピースなのかもしれない。
一方で、この移籍が失敗に終わる可能性も十分に考えられる。プレミアリーグの激しいフィジカルコンタクト、特にセットプレーでの空中戦において、ドンナルンマの消極性がどう影響するかは未知数だ。
また、グアルディオラのポゼッションサッカーにおいて、ゴールキーパーの配球ミスは致命的な失点に直結する。もしドンナルンマが期待に応えられなければ、ハートやブラーボと同じ道を辿ることになりかねない。それでも、世界最高峰の技術を持つ選手への投資は、常にリスクとリターンが隣り合わせなのが移籍市場の現実だ。