オールド・トラッフォードの芝を縦横無尽に駆け、試合の流れを変えてきた男が、新たな地平を見据え始めている。ブルーノ・フェルナンデス。マンチェスター・ユナイテッドのキャプテンであり、攻撃の心臓部。その彼が、来夏以降の移籍に前向きな姿勢を見せていると、英『Give Me Sport』が伝えた。
この夏、サウジアラビアのアル・ヒラルやアル・イティハドから総額2億ポンド規模の巨額オファーを受けながらも、フェルナンデスは残留を選んだ。
その理由は、ルベン・アモリム監督の下での挑戦を続けたいという思いと、ポルトガル代表として2026年ワールドカップ予選を戦う準備を優先したため。しかし、9月8日に31歳を迎える彼の視線は、すでにその先を見据えている。
サウジ拒否からMLSへの関心へ
海外メディア『CaughtOffside』によれば、フェルナンデスはMLSクラブからの関心に前向きな姿勢を示している。MLSの移籍市場は8月21日に閉じており、今季中の移籍は不可能だが、2026年に向けた交渉は水面下で進む可能性がある。
MLSは今夏、LAFCがソン・フンミンを2200万ユーロで獲得し、リーグの存在感を一段と高めた。しかし、サウジアラビアのクラブが提示できる移籍金や年俸には及ばない。ユナイテッドはサウジ移籍なら1億ユーロ超を要求できたが、MLS移籍ではその数分の一にとどまる見込みだ。財務的に逼迫するクラブにとっては、経済的損失を伴う決断となる。
それでもフェルナンデスにとって、MLSは決して引退前の楽園ではない。北米市場でのブランド価値向上、新たな文化圏での挑戦、そして欧州とは異なる戦術的環境での自己証明となり得る。
フェルナンデスの去就を巡る背景には、戦術面での微妙なズレもある。アモリム監督は3-4-3をベースに据え、中央の創造性をウイングバックやインサイドハーフに分散させる傾向が強い。そのため、トップ下で自由に動き回るフェルナンデスの特性が十分に活かされない試合も増えている。
8月末のフラム戦ではPKを失敗し、1-1の引き分けに終わった。これを機に一部メディアやファンから批判の声が上がり、彼の役割や必要性を巡る議論が再燃した。もっとも、彼のプレースタイルは単なる数字以上にチーム全体のリズムを作り出すものであり、その影響力は依然として大きい。
経済と感情のはざまで揺れるユナイテッド
ユナイテッドはフェルナンデスと2027年までの契約を結んでおり、さらに1年延長のオプションも保持している。クラブは今季中の放出を考えていないが、来夏には財務再建と世代交代のための資金捻出が避けられない局面を迎える。
フェルナンデスの売却は、単に戦力を削ぐだけでなく、チームの精神的支柱を失うことを意味する。彼の代役を務められる選手は現状スカッドにおらず、移籍市場での補強は必須となるだろう。創造性と得点力を兼ね備えた攻撃的MF、あるいは複数ポジションをこなせる万能型の中盤が求められる。
MLS移籍は、フェルナンデスにとってキャリアの終盤をどう彩るかという戦略的選択でもある。サウジアラビアのような巨額契約は望めないが、北米市場での影響力拡大や、異なる戦術文化での挑戦は、彼のブランド価値を長期的に高める可能性がある。
また、MLSは近年、欧州トップクラスの選手を積極的に獲得し、リーグ全体の競争力を高めている。フェルナンデスが加われば、その存在はリーグの質的向上と国際的注目度の拡大に直結するだろう。
来夏、ユナイテッドがフェルナンデスを放出する場合、その資金をどう再投資するかがクラブの未来を左右する。経験豊富な即戦力と、成長途上の若手をバランスよく組み合わせる補強戦略が求められる。コビー・メイヌーのような若手が飛躍する可能性もあるが、即戦力としての穴埋めは容易ではない。
フェルナンデス自身も、ポルトガル代表での地位を維持しつつ、新たな挑戦を選ぶタイミングを慎重に見極めている。MLS移籍は2026年以降になるが、その決断は彼のキャリアだけでなく、ユナイテッドの再建計画にも大きな影響を与えるだろう。
個人的な見解
フェルナンデスの去就は、ユナイテッドのクラブ哲学と経営戦略の試金石になると感じている。彼は数字以上に、試合の空気を変える存在であり、ピッチ内外での影響力は計り知れない。その穴を埋めるには、ただ単なポジション補強ではなく、戦術全体の再設計が必要になる。
一方で、クラブが長期的な再建を本気で目指すなら、感情に流されず、冷静な資金運用と世代交代の計画が不可欠。
フェルナンデスの売却資金をどのように再投資するかが、今後数年のユナイテッドの成否を決める。
来夏、この決断がクラブの未来を切り拓く一手となるのか、それとも後悔を残す選択となるのか…その答えは、オールド・トラッフォードの空気が最も熱を帯びる時期に明らかになる。