6000万ポンドの壁を越えられなかった夏…ガブリエウ・マルティネッリとアーセナルの駆け引き

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6000万ポンドの壁を越えられなかった夏…ガブリエウ・マルティネッリとアーセナルの駆け引き Arsenal

ガブリエウ・マルティネッリの名前が、この夏の移籍市場で静かに、しかし確かに動いていた。アーセナルは彼を絶対的な非売品と位置づけていたわけではない。むしろ、6000万ポンドを超えるオファーが届けば、交渉のテーブルにつく用意があったと、英『Daily Mail』が伝えている。

しかし、現実はその水準に届かなかった。バイエルン・ミュンヘンを含む複数クラブが関心を示したものの、提示額は最大でも4000万ポンド前後。この差が、移籍の可能性を一気にしぼませた。結果として、マルティネッリはエミレーツ・スタジアムに残り、2025-26シーズンを赤と白のユニフォームで迎えることになった。

評価額の強気設定と市場の反応

アーセナルのスポーツディレクター、アンドレア・ベルタは、今夏の補強戦略において「価値を下げない」方針を徹底した。過去には主力を市場価格以下で手放し、戦力と資金の両面で損失を被った経験がある。その反省から、マルティネッリにも高額の値札を付け、安売りを避けた。

この背景には、彼が持つ潜在能力と、まだ24歳という年齢がある。2019年の加入以来、彼は公式戦で50ゴール以上を記録し、特に2022-23シーズンにはプレミアリーグで15ゴール6アシストと爆発的な数字を残した。しかし、その後は得点効率が下降し、昨季は全公式戦51試合で10ゴール6アシスト。市場はその現状を冷静に評価し、アーセナルの要求額との間に大きな隔たりが生まれた。

戦術的価値と競争の激化

ミケル・アルテタの戦術において、左ウイングは単なる突破役ではない。ビルドアップの起点となり、中央へのカットインやフィニッシュまでを担う多機能なポジション。

マルティネッリはその役割を担えるスピードと直線的な推進力を持つが、近年は相手守備の対策に苦しみ、決定的な場面での精度が課題となっている。

今夏、アーセナルはエベレチ・エゼとノニ・マドゥエケを獲得。さらにヴィクトル・ギェケレシュも加わり、攻撃陣の競争は一気に激化した。マルティネッリは今季開幕から3試合中2試合に先発しているが、まだゴールもアシストも記録していない。

マルティネッリの現行契約は2027年までで、クラブには1年延長オプションが付いている。現時点で延長交渉は進んでおらず、今季のパフォーマンスが将来を大きく左右する見込みだ。

もし今季も得点力が伸び悩めば、来夏には評価額が下がり、クラブが売却に踏み切る可能性は高まる。逆に、かつての爆発力を取り戻せば、アーセナルは彼を長期的な戦力として再評価するだろう。 この「評価の揺れ幅」こそが、今季のマルティネッリを語る上での最大のポイントだ。彼はまだ若く、戦術的にも複数ポジションをこなせる柔軟性を持つ。だが、クラブが求めるのは潜在能力ではなく、結果だ。

エミレーツのスタンドからは、依然として彼への期待が感じられる。スピードに乗ったドリブル、鋭いカットイン、そして時折見せるビッグマッチでの勝負強さ。これらはファンの記憶に深く刻まれている。しかし、プレミアリーグの優勝を狙うチームにおいて、感情だけでポジションは守れない。 アルテタは今季、選手間の競争を意図的に高めている。ギェケレシュの加入で前線の形は柔軟になり、エゼやマドゥエケの存在がウイングの選択肢を広げた。マルティネッリはその中で、自らの強みを再定義しなければならない。

今冬の移籍マーケットとその先

今季前半戦の出来次第では、冬の移籍市場で再び彼の名前が浮上する可能性がある。アーセナルはチャンピオンズリーグとプレミアリーグの両立を目指す中で、戦力の入れ替えを柔軟に行う姿勢を見せている。もしマルティネッリが序列を下げれば、クラブは資金化を検討するだろう。 一方で、彼が再びゴールを量産し、左サイドの主役として存在感を示せば、来夏の移籍話は一転して契約延長交渉へと変わる。つまり、この数カ月間がキャリアの分岐点になる。

個人的な見解

今回のマルティネッリ残留劇は、アーセナルの移籍戦略の変化を象徴している。かつてのように市場の圧力に屈して主力を手放すのではなく、クラブが設定した価値を守り抜いた。

その姿勢は、短期的には補強計画の柔軟性を制限するかもしれないが、長期的には選手の市場価値維持とチームの競争力向上につながるはず。 ただし、この戦略は選手のパフォーマンスが伴って初めて成立する。マルティネッリが今季も得点力を欠けば、評価額は下がり、クラブの強気な姿勢は逆効果となる可能性がある。

逆に、彼が再び爆発すれば、アーセナルは6000万ポンドという評価額を正当化できるだけでなく、さらに高額での契約延長や売却も視野に入れられる。 個人的には、この数カ月間の彼のプレーが、アーセナルの左サイドの未来を決定づけると見ている。競争の激しい環境でこそ、真の実力が試される。マルティネッリがその舞台で輝きを取り戻すのか、それとも新たな挑戦を求めて旅立つのか。その答えは、もうすぐ見えてくる。