かつてアンフィールドで歓声を浴びた男が、再びイングランドの地を踏もうとしている。アレックス・オックスレイド=チェンバレン、32歳。アーセナルからリヴァプールへと渡り、ユルゲン・クロップの下でプレミアリーグ優勝とチャンピオンズリーグ制覇を経験した万能型ミッドフィールダーは、2023年にトルコのベシクタシュへ移籍。
しかし、2024-25シーズンを終える前、契約を1年残して双方合意のもとで契約解除に至った。その理由は明白だ。出場機会の減少と高額な給与負担、そして本人の「プレミア復帰」への強い意志である。
英『TBR Football』によると、現在、彼の獲得に関心を示しているのはエヴァートンとリーズ・ユナイテッドのようだ。移籍市場が閉じた後でも、フリーエージェントである彼は即時契約が可能で、各クラブにとって戦力補強の最後の一手となり得る。
エヴァートンが描く「経験値の補強」
デイヴィッド・モイーズ監督率いるエヴァートンは、今季序盤からジャック・グリーリッシュの加入効果で攻撃面が活性化している。グリーリッシュはわずか3試合で4アシストを記録し、チームの攻撃を牽引。
しかし、長いシーズンを戦い抜くには中盤の層が依然として薄い。特に、試合終盤の試合管理や、負傷者が出た際の戦術オプションは限られている。
オックスレイド=チェンバレンは、インサイドハーフ、ウイング、アンカーと複数ポジションをこなせる柔軟性を持つ。リバプール時代には235試合に出場し20得点24アシストを記録。
その中には、2019年のチャンピオンズリーグ・ヘンク戦での2得点のように、試合の流れを変える一撃もあった2。エヴァートンにとって、彼の加入は単純な戦力補充ではなく、試合の流れを読む力と勝者のメンタリティを注入できる人材と言える。
さらに、地元ライバルであるリヴァプールでプレー経験を持つ選手を迎えることは、ファンの間で賛否を呼びつつも、メディア露出や話題性を高める効果がある。モイーズが彼を再生させることができれば、グリーリッシュ同様にキャリアの“第二章”を輝かせる可能性がある。
リーズ・ユナイテッドが求める「残留請負人」
一方、ダニエル・ファルケ監督率いるリーズは、プレミア復帰初年度の残留を最大目標としている。夏の移籍市場では中盤補強が難航。ブレンデン・アーロンソンは昨季チャンピオンシップで期待外れに終わり、10番のポジションが不安定なままだ。
オックスレイド=チェンバレンは、その穴を埋める即戦力候補。ファルケの戦術は中盤の選手に高い戦術理解度と運動量を求めるが、彼はその両方を兼ね備えている。加えて、プレミアでの豊富な経験は、若手主体のチームに安定感をもたらすだろう。
ただし、懸念は尽きない。過去数年の負傷歴は深刻で、英『Sky Sports』の名物実況イアン・ダーケも「彼の復活にはかなりの想像力が必要」と語っている。それでも、移籍金ゼロで獲得できる条件は、財政的に余裕のないリーズにとって大きな魅力。
個人的な見解
オックスレイド=チェンバレンのキャリアは、輝かしい瞬間と苦しいリハビリの繰り返しだった。全盛期の推進力とダイナミズムは、クロップのゲーゲンプレスを象徴する存在の一つだったが、度重なる負傷がその輝きを削いだのも事実だ。
それでも、彼が持つ経験値、戦術的柔軟性、そして勝者としてのメンタリティは、今もプレミアの舞台で価値を持つ。
個人的には、エヴァートンでの再起が最も現実的だと感じる。モイーズの下でローテーションの要として機能し、グリーリッシュとの相乗効果で攻撃の幅を広げられるだろう。
一方、リーズでの挑戦はリスクが高いが、残留争いの渦中で若手を引き上げる起爆剤となる可能性もある。
いずれにせよ、この移籍は彼のキャリアにおける「最後の大舞台」になる可能性が高い。だからこそ、どのクラブを選ぶにせよ、彼が再びプレミアのピッチで躍動する姿を見たい。あの力強いドリブルとミドルシュートが、もう一度スタジアムを沸かせる瞬間を心から願っている。