リスボンのスタジアムに響く歓声とともに、ヨーロッパサッカー界の注目は、21歳のベルギー代表DFゼノ・デバストに集まっている。身長189センチの堂々たる体格から繰り出される正確無比なロングパスと、現代フットボールに不可欠なボールプレイング能力で、プレミアリーグの名門3クラブを虜にしている。
英『Caught Offside』によると、マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、アストン・ビラが激しい三つ巴の争奪戦を繰り広げており、スポルティングCPとの契約に設定された8000万ユーロのリリース条項が移籍の鍵を握っている。
デバストの名前がヨーロッパ中のスカウトレポートに躍り出たのは、昨夏のアンデルレヒトからスポルティング移籍後のことだった。ポルトガルリーグ制覇に貢献した新人シーズンの活躍により、その存在価値は一気に高まった。左利きの彼が見せる冷静沈着なディフェンス技術と、攻撃の起点となるビルドアップ能力は、まさにモダンフットボールが求める理想形。
マンチェスター・ユナイテッドの1月電撃作戦
9月上旬から中旬にかけて、マンチェスター・ユナイテッドとアーセナルがスカウトをポルトガルに派遣していることが判明し、冬の移籍市場における本格的な動きが始まっている。レッド・デビルズにとって、この積極的なスカウト活動は戦略的必然性に基づいている。
ルベン・アモリム監督により、ユナイテッドの守備戦術は大きな変革を迎えている。アモリムは短い期間であるものの、スポルティング時代にデバストを直接指導した経験があり、選手の特性を熟知している。この既存の信頼関係が、ユナイテッドの獲得レースにおける最大のアドバンテージとなっている。
ユナイテッドは7000万ポンドでの獲得を検討しているが、これはリリース条項を下回る金額。クラブは段階的な交渉アプローチを採用し、まず現実的な価格帯での合意を模索している。
夏の移籍市場で2億5000万ユーロを超える大型補強を敢行したユナイテッドだが、ジェイドン・サンチョのアストン・ビラへのローン移籍や、アントニーのレアル・ベティス売却により給与圧迫を緩和し、1月の補強資金を確保している。
ハリー・マグワイアの年齢的衰えにより、センターバック補強は喫緊の課題だ。デバストの守備的ミッドフィールダーとしての適性も、戦術的多様性を求めるアモリム監督には魅力的な要素となっている。
アーセナルの計算高い補強戦略
ガナーズの動きもまた注目に値する。ミケル・アルテタ監督がデバスト獲得に向けた具体的な計画を進めているという。一見すると矛盾した動きだ。ウィリアム・サリバ、ガブリエル、ベン・ホワイト、ピエロ・インカピエと、既にワールドクラスのセンターバックを4人擁している。
しかし、アルテタの狙いはより深いところにある。デバストの右足から生み出される精密なパス能力は、アーセナルのビルドアップをさらに多彩にする。特に左サイドからのロングレンジパスは、右ウイングのブカヨ・サカへの供給ルートとして機能し、攻撃バリエーションを格段に増やす。
また、デバストの守備的ミッドフィールダーとしての能力は、デクラン・ライスの負担軽減にも繋がる。チャンピオンズリーグとプレミアリーグの過密日程において、高品質なローテーション要員の確保は必須だ。アーセナルの財政力を考えれば、8000万ユーロの投資も現実的な範囲内にある。
アストン・ビラの野心的挑戦
三つ巴の戦いで最もアグレッシブなのが、意外にもアストン・ビラかもしれない。昨季のチャンピオンズリーグ復帰により、クラブの魅力度は飛躍的に向上した。ウナイ・エメリ監督の下で見せた戦術的成熟度は、若い才能にとって理想的な成長環境を提供している。
ビラの関心は夏の移籍市場での制約に起因している。PSR規則への抵触懸念により、予定していたセンターバック補強を見送った経緯がある。エズリ・コンサ、パウ・トーレス、タイロン・ミン、グス、ヴィクトル・リンデレフと十分な陣容を揃えるが、欧州戦も含めたローテーションに不安はないわけではない。
デバストの年齢を考慮すれば、これは10年スパンでの投資となる。ビラにとって、プレミアリーグ上位定着とヨーロッパでの競争力維持のための戦略的獲得となる。
ベルギー代表としてのキャリアも順調で、21キャップを重ねている。2029年までのスポルティングとの契約期間を考慮すると、今冬の移籍が実現しなければ、移籍実現はより困難になる可能性がある。
現在のマーケット環境において、8000万ユーロという価格設定は決して法外ではない。ハリー・マグワイアが8000万ポンド、フィルジル・ファン・ダイクが7500万ポンドで移籍した過去を考慮すれば、21歳という若さと将来性を加味したデバストの評価額は適正範囲内と言える。
個人的見解
この三つ巴の争奪戦において最も興味深いのは、各クラブの異なる動機だ。ユナイテッドは即戦力としての獲得を狙い、アーセナルは戦術的多様性の追求、ビラは長期的なクラブ強化を目指している。これらの異なるアプローチが、最終的にどのような結果をもたらすかが注目点だ。
デバスト自身にとって最適な選択肢を考えると、アモリム監督との既存関係があるユナイテッドが有力だが、定期的な出場機会を考慮すればビラも魅力的。
一方、アーセナルでは当初はローテーション要員からのスタートとなる可能性が高い。
この冬の移籍市場は、デバストの決断により大きく動くことになるだろう。プレミアリーグ史上最も注目すべき若手センターバックの争奪戦として、その行方から目が離せない。