383日。この数字が、マルク・ベルナルという18歳の若き才能にとってどれほど重い意味を持つのか、サッカーファンなら想像に難くないだろう。2024年8月27日、バジェカスでの試合でACLを損傷し、絶望の淵に立たされたバルセロナの至宝が、ついに復活の狼煙を上げた。そして今、その復活劇を目の当たりにしたチェルシーが、この稀有な才能に熱視線を送っている。
ベルナルは今年9月13日に遂にフィットネステストをクリア。9月15日のバレンシア戦で途中出場を果たし、レヴァンドフスキの6点目をアシストという形で完璧な復帰を飾った。
スペイン紙『Fichajes』の報道によれば、チェルシーはこのバルセロナの逸材を長期的なターゲットとして位置づけているという。
当初はフェルミン・ロペスの獲得を模索していたブルーズだが、現在は完全にベルナルへとフォーカスを切り替えた。この戦略転換は、エンツォ・フェルナンデスやモイセス・カイセドといった既存の中盤陣に加えて、より若く、より長期的な投資対象を求める同クラブの意図が透けて見える。
チェルシーが描く中盤構想とベルナルの位置づけ
ベルナルの復帰は、まさに奇跡という言葉がふさわしい。本人自身が怪我について「トンネルの向こうに光が見えなかった」と振り返りながらも、「怪我が僕を強くしてくれた」と語るように、この長期離脱は彼の精神的な成長にも大きく寄与している。
チェルシーの関心は決して一朝一夕に生まれたものではない。今夏の移籍市場において、チェルシーを含む7つのクラブがベルナルについて照会を行ったとの報道もあり、プレミアリーグの強豪たちがこの18歳に注目していることは明らか。
マンチェスター・ユナイテッドやニューカッスルといった他のビッグクラブとの争奪戦も予想される中、チェルシーがどのような切り札を持っているかが焦点となる。
ベルナルの魅力は、単純な技術力だけでなく、その戦術的理解度の高さにある。ディフェンシブミッドフィールダーとしての基本能力はもちろん、現代サッカーに求められるビルドアップ能力、そして何より若干18歳にして見せる試合の流れを読む能力は、まさに天賦の才と言えよう。カンプ・ノウのピッチで見せた冷静なプレーぶりは、長期離脱のブランクを全く感じさせないものだった。
バルセロナの財政難とチェルシーの資金力
現実的な移籍の可能性を考える上で無視できないのが、バルセロナの厳しい財政状況。カタルーニャの名門クラブは、依然として選手の登録問題に頭を悩ませており、有望な若手であっても適切な条件が提示されれば売却を検討せざるを得ない状況にある。
一方のチェルシーは、トッド・ベーリー体制下で積極的な補強を続けており、資金面での不安は皆無。特に若手有望株への投資には惜しみなく資金を投入する姿勢を見せており、ベルナルのような将来性抜群の選手は、まさに同クラブの投資方針にマッチする。
しかし、ここで重要な問題が浮上する。ベルナルにとって、現時点でのチェルシー移籍が果たして最適な選択肢と言えるのだろうか。18歳という年齢を考えれば、定期的な出場機会の確保は成長にとって不可欠だ。チェルシーの現在の中盤には既に多くのタレントがひしめいており、ベルナルが即座にレギュラーポジションを掴むのは現実的ではない。
今夏、ベルナルは複数クラブからのオファーを断り、バルセロナ残留を選択したとの報道もあり、彼自身がクラブへの愛着と成長機会を天秤にかけて慎重に判断していることがうかがえる。
それでも、チェルシーがベルナル獲得に本腰を入れる理由は明らか。現在のチームを見渡しても、カイセドのようなハードワーカータイプはいるものの、ベルナルが持つような創造性とビジョンを兼ね備えた選手は少ない。フランク・ランパード時代から続く同クラブの中盤における創造性不足は、多くのサポーターが感じている課題でもある。
個人的な見解
ベルナルの現在の状況は非常に興味深い岐路に立っていると感じる。
383日という長期間の離脱から復帰したばかりの18歳にとって、安定した出場機会を確保できる環境こそが最優先であるべきだろう。
バルセロナでハンジ・フリック監督の下、着実にステップアップを図る方が、長期的な成長には有益かもしれない。
しかし、サッカーというスポーツの残酷さを考えれば、チャンスが巡ってきた時に躊躇することの危険性も理解できる。
特にバルセロナの現在の財政状況を鑑みると、クラブが売却を決断する可能性も決してゼロではない。
その場合、プレミアリーグという世界最高峰のリーグで腕試しをするのも、一つの選択肢として十分に検討に値する。
チェルシーサイドから見れば、ベルナルのような逸材を育成し、クラブの象徴的存在に押し上げることができれば、それはファンとの絆を深める上でも計り知れない価値を生むはず。