ウィリアム・サリバの去就は欧州サッカー界で最も熱を帯びるテーマのひとつだ。先週末のアーセナル対マンチェスター・シティ戦(1-1)には、レアル・マドリードのスカウトが再び姿を現し、サリバのプレーを細部まで観察していたと、英『TBR Football』が報じている。
サリバは2019年にサンテティエンヌからアーセナルへ加入。ローン移籍を経て2022-23シーズン以降に定位置を確保し、今やプレミアリーグ屈指のセンターバックへと成長した。24歳にしてフランス代表の主力に定着し、ユーロ2024では準決勝進出に大きく貢献。今季もガブリエウとのコンビでリーグ最少失点を誇る守備を築き上げている。
マンチェスター・シティ戦では、エルリング・ハーランドとの激しい肉弾戦を制し、90分間で5回のクリア、4度のタックル成功、デュエル勝率83%、パス成功率96%という圧巻の数字を残した。冷静さと強靭さを兼ね備えたその姿は、ベルナベウのスタンドから見守るスカウトに強烈な印象を与えたに違いない。
レアル・マドリードはすでにディーン・ハイセンを獲得しているが、アントニオ・リュディガーとダビド・アラバの契約満了が迫っており、守備の再構築は避けられない課題となっている。さらに、イブラヒマ・コナテやマルク・グエヒといったフリートランスファー候補もリストアップしているが、クラブの本命はあくまでサリバのようだ。
アーセナルの決意と契約延長交渉の駆け引き
一方で、アーセナルはサリバを絶対に手放すつもりはない。クラブは彼に対して「クラブ史上最高額」となる新契約を提示しており、週給30万ポンドを超える条件が検討されている。これはブカヨ・サカやデクラン・ライスをも上回る水準であり、ミケル・アルテタがサリバを未来の象徴と見なしていることを鮮明に示している。
ただし、交渉は容易ではない。サリバの代理人は9月中旬にアーセナルとの「緊急会談」を要求し、さらなる条件改善を求めている。契約は2027年まで残っているものの、クラブが2026年までに延長をまとめなければ、残り1年の状況でマドリードに揺さぶられる危険性が高まる。
アーセナル内部には「必ず延長できる」という強い自信がある一方で、スペインメディアは「サリバがマドリード移籍に前向き」と報じるなど、情報は錯綜している。この不確実性こそが、ファンの不安をかき立て、移籍市場をさらに熱くしている。
さらに注目すべきは、アーセナルが今夏にクリスティアン・モスケラやピエロ・インカピエといった若手CBを補強している点。これは「サリバ流出に備えた布石ではないか」との憶測を呼んでいる。クラブは公式には否定しているが、補強の動きが交渉カードとして利用されている可能性は否めない。
個人的な見解
ウィリアム・サリバを巡る攻防は、移籍市場の一案件にとどまらない。
これは、アーセナルが真に欧州の頂点を狙うクラブへと進化できるかどうかを示す試金石になり得る。
もしサリバを引き留めることができれば、アーセナルは「育てたスターを売るクラブ」から「スターを抱え続けるクラブ」へと変貌を遂げる。その象徴的な一歩となるだろう。
一方で、レアル・マドリードの動きも見逃せない。彼らは常に世界最高の選手を集め、時代を支配してきた。サリバの冷静さと強靭さはベルナベウの舞台にふさわしい。
しかし、私の見立てでは、現時点でサリバが移籍を選ぶ可能性は低い。アーセナルが提示する条件は破格であり、アルテタの下で築き上げたプロジェクトは、彼にとってもキャリアの頂点を狙える環境だからだ。
ただし、マドリードの誘惑は決して軽視できない。彼らは時間を味方につけ、契約満了を待つ戦略を得意としている。もしアーセナルが2026年までに延長をまとめられなければ、状況は一気にマドリード有利へと傾くだろう。
結局のところ、この物語はまだ序章に過ぎない。サリバの決断は、プレミアリーグとラ・リーガ、そして欧州サッカー全体に波紋を広げることになる。
私自身は、彼がアーセナルに残り、クラブを悲願のリーグ制覇へ導く姿を見たいと願っている。しかし、ベルナベウの白いユニフォームに袖を通す未来もまた、現実味を帯びて迫っている。