フランス・リーグアン最大の舞台「ル・クラシック」で、ナイフ・アゲルドの名前が再び脚光を浴びた。試合開始わずか5分、メイソン・グリーンウッドのクロスに反応したアゲルドが頭で合わせ、パリ・サンジェルマンのゴールを破った。
この得点は後にマルキーニョスのオウンゴールに訂正されたものの、アゲルドの空中戦での強さと存在感は揺るぎないものとして刻まれた。マルセイユはこのゴールを守り切り、実に14年ぶりとなるホームでのリーグ戦対PSG勝利を収めた。
アゲルドは今夏、ウェストハムからマルセイユに完全移籍したばかり。移籍金は約2300万ユーロと報じられ、ロベルト・デ・ゼルビ監督の下で即座にレギュラーに定着。守備の統率力、空中戦の強さ、そしてビルドアップにおける冷静さを兼ね備え、短期間でチームの柱となった。レアル・ソシエダでのローン経験を経て、ラ・リーガの強度を吸収したことも彼の成長を後押ししている。
この復活劇が、マンチェスター・ユナイテッドの関心を呼び込んだ。スペイン紙『Fichajes』の報道によれば、ユナイテッドはアゲルドを1月の移籍市場で獲得候補にリストアップしており、ローンか完全移籍かは未定ながら、具体的な動きが検討されている。
マンチェスター・ユナイテッドの守備補強とアゲルドの適性
ユナイテッドの守備陣は今季も不安定さを露呈している。リサンドロ・マルティネスは負傷を繰り返し、ハリー・マグワイアは契約最終年に突入。ジョニー・エヴァンスとヴィクトル・リンデロフは今夏に退団し、センターバックの層は明らかに薄い。ルベン・アモリム監督は3バックを志向するが、現有戦力では安定感を欠いており、経験豊富な即戦力CBが必要不可欠となっている。
その点で、ナイフ・アゲルドは条件を満たしている。29歳という年齢はピークを迎えるタイミングであり、モロッコ代表として国際舞台の経験も豊富。特に2022年カタールW杯での堅守は記憶に新しく、組織的な守備の中でリーダーシップを発揮してきた。マルセイユでは空中戦勝率の高さとライン統率力を武器に、デ・ゼルビの戦術にフィットしている。
ただし、プレミアリーグで再び通用するかどうかは未知数だ。ウェストハム時代にはスピードのあるアタッカーに背後を突かれる場面が多く、強度の高いリーグに完全に適応できなかった。ユナイテッドが求めるのは、ハイライン戦術に耐えうるアスリート性と、ボール保持時の冷静さを兼ね備えたセンターバックである。アゲルドがその要求に応えられるかどうかは、最大の焦点となる。
今夏の移籍市場でユナイテッドはマテウス・クーニャ、ベンヤミン・シェシュコ、ブライアン・ムベウモらを獲得し、攻撃陣の刷新に力を注いだ。一方で守備補強は後回しとなり、シーズン序盤から失点の多さが課題として浮き彫りになっている。ナイフ・アゲルド獲得の噂は、その穴を埋めるための緊急策としての色合いが強い。
ただし、ユナイテッドは同時にジャラッド・ブラントウェイトといった若手有望株にも関心を寄せており、アゲルドは「即戦力」としての位置づけに過ぎない可能性もある。クラブが長期的な再建を優先するのか、それとも短期的な安定を求めるのかによって、アゲルドへのアプローチは大きく変わるだろう。
マルセイユ側としても、加入直後に主力となったアゲルドを簡単に手放すとは考えにくい。移籍金は最低でも3000万ユーロ以上が必要とされ、ユナイテッドが財政的にどこまで踏み込めるかが交渉のカギとなる。
個人的な見解
ナイフ・アゲルドの名前がユナイテッドの補強候補として浮上したことは、クラブの現状を如実に映し出している。
かつては世界最高峰の才能を引き寄せる磁力を持っていたユナイテッドだが、近年は財政難と成績不振により、トップクラスの選手を口説き落とす力が弱まっている。
アゲルドのような「堅実だが世界的スターではない」選手に目を向けざるを得ないのは、その象徴だ。
個人的には、アゲルドがユナイテッドにとって即戦力となる可能性は十分にあると考える。特に、経験値とリーダーシップは若手が多い守備陣に安定をもたらすだろう。
ただし、それはあくまで「現状の穴埋め」としての役割に過ぎない。クラブが本当に復権を目指すのであれば、アゲルド級の補強に満足してはいけない。
彼を獲得するか否かは、ユナイテッドが「短期的な安定」を取るのか、それとも「長期的な再建」を優先するのか、その選択の分岐点になるはずだ。
さらに言えば、ナイフ・アゲルド自身にとってもこの移籍はキャリアの岐路となる。マルセイユで築き始めた信頼を捨て、再びプレミアリーグに挑むのか。
それともフランスで確固たる地位を築くのか。彼の決断は、ユナイテッドの未来だけでなく、自身のキャリアの評価をも左右する。
29歳という年齢を考えれば、これが最後のビッグクラブ移籍のチャンスになる可能性も高い。