マンチェスター・ユナイテッドが、ブレントフォードの守備的MFイェホル・ヤルモリュクに本格的な関心を寄せている。英『Caught Offside』が伝えるところによれば、ユナイテッドは来夏の補強リストにヤルモリュクを加えた。その背景には崩れかけた中盤の再構築に向けた、切迫した選択である。
9月末のブレントフォード戦は、ユナイテッドにとって屈辱的な一戦だった。開始20分で2失点、ブルーノ・フェルナンデスのPK失敗、GKアルタイ・バインドゥルの凡ミス。個々のミスが重なったとはいえ、根本的な問題は中盤の機能不全にあった。ルベン・アモリムの2センター布陣は、ブレントフォードの若き司令塔ヤルモリュクに完全に攻略された。
この試合でヤルモリュクは、60タッチ、7リカバリー、36本のパス成功、4回のデュエル勝利、そして延長戦でのアシストと、圧倒的な存在感を示した。ユナイテッドのスカウト陣はこのパフォーマンスを見逃さず、即座に彼を2026年夏のターゲット候補に加えた。
ヤルモリュクのプレースタイル──“潰し屋”ではなく“繋ぎ手”
ヤルモリュクは、いわゆる破壊的なボールハンターではない。彼の真価は、守備と展開のバランスにある。ブレントフォードでは主に4-3-3のアンカーとして起用されており、試合のテンポを操る役割を担っている。今季のスタッツでは、平均パス成功率88%、ロングボール成功率72%、1試合あたりのインターセプト数2.1と、数字が物語るように“つなぎ”の精度が高い。
ユナイテッドが現在採用している2センターでは、ブルーノ・フェルナンデスの攻撃的なポジショニングを支える守備的MFが不可欠。カゼミーロはその役割を担ってきたが、2026年6月で契約満了を迎える彼の衰えは明らか。カルロス・バレバの獲得が難航している今、ヤルモリュクは現実的かつ将来性のある選択肢として浮上している。
さらに、ヤルモリュクは3センターへの移行にも柔軟に対応できる。彼のポジショニングセンスと視野の広さは、インサイドハーフとしても機能する可能性を秘めており、戦術の幅を広げる存在になり得る。
移籍市場の競合とブレントフォードの売却姿勢
ヤルモリュクの評価額は約3000万ポンドとされており、ユナイテッドにとっては手が届く範囲だ。だが、獲得競争は熾烈。トッテナムは元ブレントフォード監督トーマス・フランクとの関係性を活かし、交渉で優位に立つ可能性がある。さらに、アストン・ヴィラ、ボルシア・ドルトムント、ナポリも関心を示しており、争奪戦は避けられない。
ブレントフォードは今夏にもブライアン・ムベウモやヨアネ・ウィサを売却しており、適正価格であれば放出に応じる姿勢を見せている。ヤルモリュクもその流れに乗る可能性は十分にある。
ただし、ユナイテッドの補強戦略は監督人事に大きく左右される。アモリムの続投が不透明な中、次期監督次第ではヤルモリュクの価値はさらに高まる可能性すらある。逆に、即戦力を求める方針に転じれば、彼のような育成型の選手は後回しになるかもしれない。
ヤルモリュクのメンタリティとプレミア適性
ヤルモリュクは2022年にSCドニプロからブレントフォードへ移籍し、すでに72試合に出場。プレミアリーグの激しいプレスにも怯まず、試合終盤でも運動量を維持するタフネスを持つ。ウクライナ代表としても国際経験を積みつつあり、精神面でも成熟している。
彼のプレーには、冷静さと闘志が同居している。ボールを奪った瞬間に次の展開を描き、味方の動きに合わせて最適なパスを選択する判断力は、年齢以上のものを感じさせる。ユナイテッドのような巨大クラブでプレーするには、技術以上にメンタルが問われるが、彼にはその資質がある。
個人的な見解
ヤルモリュクの名前がユナイテッドの補強リストに載ったことは、偶然ではない。
彼のプレーには、今のユナイテッドが失ってしまった“中盤の秩序”がある。カゼミーロの衰え、ブルーノ・フェルナンデスの不安定さ、そしてアモリムの戦術の限界。これらを補うには、ヤルモリュクのような“頭脳型”のMFが必要。
もちろん、彼はまだ21歳。プレミアでの経験はあるとはいえ、ユナイテッドというクラブの重圧は別格だ。だが、彼の冷静さと判断力は、若さを感じさせない。
もし獲得が実現すれば、ユナイテッドの中盤は確実に一歩前進する。そして何より、彼のような選手がいることで、若手が育ち、戦術が広がり、クラブの未来が描ける。ヤルモリュクは、ユナイテッドの“再生”の象徴になり得る存在と言える。