2025年夏の移籍市場で、サンダーランドがナポリMFザンボ・アンギサ獲得に動いたというニュースは、欧州サッカー界に強い衝撃を与えた。プレミアリーグ復帰を果たしたばかりのクラブが、セリエA王者の中盤を支える主力選手に狙いを定めたのだ。
ファブリツィオ・ロマーノ氏の報道によれば、サンダーランドは正式なオファーを提示し、ナポリと選手サイドに接触していた。
サンダーランドは今夏、積極的な補強でクラブの地位を押し上げようとしている。グラニト・ジャカや若手有望株の獲得に成功し、プレミアリーグでの安定を目指す中で、アンギサのような国際的な実力者を迎え入れることは、クラブの野心を象徴する一手だった。
しかし、この挑戦は実を結ばなかった。理由は明確で、アントニオ・コンテが強い意志を持ってアンギサ残留を訴えたからだ。コンテは就任直後からアンギサを「不可欠な存在」と位置づけ、クラブに対しても売却を拒否する姿勢を貫いた。ナポリの経営陣は財政的な魅力を感じつつも、監督の意見を尊重し、最終的にアンギサを手放さない決断を下した。
ナポリにおけるアンギサの価値とサンダーランドの狙い
アンギサはナポリの中盤において、攻守両面で欠かせない役割を担っている。2024-25シーズンにはセリエAで35試合に出場し、6得点5アシストを記録。守備面では1試合平均2回以上のボール奪取を誇り、攻撃面では中盤からの推進力でチームを前進させた。スタニスラフ・ロボツカが試合を整理し、ピオトル・ジエリンスキが前線をつなぐ中で、アンギサは攻守をつなぐ「橋」として機能している。
プレミアリーグで生き残るためには、経験豊富でフィジカルに優れた中盤の支配者が必要だった。アンギサはその条件をすべて満たしており、さらにプレミアリーグ経験者でもある。フラムやビジャレアルでのプレーを経て、ナポリで欧州トップレベルの舞台を経験した彼は、サンダーランドにとって理想的な補強ターゲットだった。
しかし、ナポリにとってアンギサは戦力の一人ではない。コンテの戦術哲学を支える「走れる中盤」として、彼は不可欠な存在だ。ユヴェントス時代のアルトゥーロ・ビダル、チェルシー時代のエンゴロ・カンテといった選手たちと同じように、アンギサはコンテのチームにおける心臓部を担っている。
サンダーランドの野心が示す未来
今回の移籍は成立しなかったが、サンダーランドの挑戦は決して無駄ではなかった。むしろ、クラブの野心を世界に示す出来事となった。欧州カップ戦に出場していないにもかかわらず、セリエA王者の主力を本気で狙った事実は、クラブの存在感を大きく高めた。
プレミアリーグ復帰後、サンダーランドは着実に戦力を整えつつある。経験豊富な選手と若手の融合を進め、クラブの基盤を固めている。アンギサ獲得は叶わなかったものの、その姿勢は今後の移籍市場でさらなる波紋を呼ぶだろう。
2025-26シーズン、ナポリはセリエA連覇と欧州での躍進を目指している。その中心にアンギサがいることは間違いない。コンテが彼を残留させたことは、戦術的にも精神的にも大きな意味を持つ。
サウジアラビアからの高額オファーも存在したが、アンギサはナポリに残る決断を下した。これはクラブとサポーターにとって大きな安心感を与え、チーム全体の結束を強める効果を持つだろう。
個人的な見解
今回の一件を取材して強く感じたのは、サンダーランドの挑戦が持つ象徴的な意味だ。
欧州カップ戦に出場しないクラブが、ナポリの主力を本気で狙ったことは、プレミアリーグの資金力と魅力を改めて示す出来事だった。
アンギサを逃したとしても、その野心的な姿勢は今後の移籍市場で必ず生きてくる。
一方で、ナポリにとってはアンギサ残留が大きな勝利だった。中盤のバランスを守り抜いたことで、セリエA連覇や欧州での躍進に現実味が増した。
コンテの判断はクラブの未来を左右する分岐点であり、今後の戦いにおいて決定的な意味を持つだろう。
サンダーランドの挑戦とナポリの決断、その両者が交錯した今回の移籍劇は、2025-26シーズンを語るうえで欠かせないエピソードとなった。