アダマ・トラオレの未来は大きな岐路に立たされている。フラムでの出場機会は限られ、今季プレミアリーグでの先発はゼロ。わずかな出場時間にとどまる現状は、彼がマルコ・シウバの戦術構想から外れつつあることを如実に示している。契約は今シーズン終了時に満了を迎えるため、クラブが冬の移籍市場で放出を決断する可能性は極めて高い。
英『TEAMtalk』の報道によれば、ウェストハムがトラオレ獲得に強い関心を示している。新監督ヌーノ・エスピリト・サントは、ウルブス時代にトラオレを重用し、彼の爆発的なスピードとフィジカルを最大限に活かした経験を持つ。ヌーノの戦術哲学は、守備から一気に攻撃へと切り替えるダイナミズムにあり、その中でトラオレは最適な駒となり得る。
ウェストハムは今季序盤から深刻な得点力不足に苦しんでいる。7試合でわずか5得点という数字は、プレミアリーグ全体でも下位に位置する。ニクラス・フュルクルクやカラム・ウィルソンといった補強はあったものの、両者とも年齢やフィット感の面で課題を抱えており、攻撃の推進力を担う存在は不足している。
ヌーノは就任直後から「前線の刷新」を最優先課題に掲げており、トラオレの加入はその解決策の一つとして浮上している。
ラ・リーガからの関心とフラムの補強戦略
一方で、トラオレの去就はウェストハムだけでなく、ラ・リーガの複数クラブも注目している。スペインメディアによれば、ビジャレアル、セビージャ、バレンシアといったクラブが接触を図っており、母国復帰の可能性も現実味を帯びてきた。トラオレにとってラ・リーガは育成期を過ごした舞台であり、プレースタイルの適性を考えれば再挑戦の選択肢は十分に魅力的だ。
フラム側も動きを見せている。アーセナルからリース・ネルソンを完全移籍で獲得する交渉が進んでいるとされたが、最終的にはブレントフォードにレンタル移籍。後釜確保とならなかったものの、退団濃厚と見られていたウェールズ代表FWハリー・ウィルソンを残留さえ枚数を揃えた。
アダマ・トラオレの最大の武器は、言うまでもなく圧倒的なスピードとフィジカルだ。プレミアリーグでも屈指の瞬発力を誇り、相手ディフェンダーを一瞬で置き去りにする突破力は健在である。ウルブス時代にはヌーノのカウンター戦術の要として機能し、10ゴール18アシストを記録。守備から攻撃への切り替え局面で、彼の存在は絶大な効果を発揮した。
ウェストハムに加入した場合、ジャロッド・ボーウェンやクリセンシオ・サマーフィルといったアタッカー陣との連携が鍵となる。特にボーウェンとの両翼は、相手守備にとって脅威となるだろう。中盤からのロングボールやカウンターの起点として、トラオレが縦に仕掛けることで、ウェストハムの攻撃は一気に厚みを増す。現在の停滞した攻撃陣にとって、彼の加入は戦術的な多様性をもたらす可能性が高い。
契約満了とキャリアの分岐点
トラオレの契約は2026年夏に終了。フラムが延長オプションを行使する可能性も残されているが、現状では移籍市場での売却が現実的な選択肢と見られている。クラブにとっては、移籍金なしでの放出を避けるためにも1月での売却が合理的だ。選手本人にとっても、出場機会を得られない現状を打破するためには、新天地での挑戦が不可欠となる。
ウェストハムでの再会か、ラ・リーガ復帰か。あるいは他クラブからのオファーを待つのか。トラオレの決断は、彼のキャリアの方向性を大きく左右する。爆発的な才能を持ちながらも、安定した評価を得られなかったこれまでのキャリアを考えれば、次の一歩は極めて重要だ。
個人的な見解
アダマ・トラオレのキャリアは、常に「可能性」と「未完成」の間で揺れ動いてきた。
ウルブス時代にはプレミア屈指の突破力を誇り、観客を沸かせる存在だったが、決定力や戦術的な柔軟性に課題を残した。フラムではその弱点が露呈し、シウバの戦術に適応できずにいる。
しかし、ヌーノとの再会は彼にとってキャリアを再生する最後の大きなチャンスになるかもしれない。
ウェストハムにとっても、トラオレ獲得はリスクを伴う。彼の爆発力は確実にチームを前進させるが、安定した得点源となれるかは未知数。
それでも、降格圏に沈む現状を打破するには「安全策」ではなく「挑戦」が必要だと感じる。ヌーノが信頼を寄せる選手を迎え入れることで、チーム全体の士気を高める効果も期待できる。
1月の移籍市場で、この再会劇が実現するかどうかは、今季のウェストハムの命運を左右する大きな分岐点になるだろう。

