フラムの右サイドを支えるティモシー・カスターニュは、クラブにとって欠かせない存在となりつつある。2023年夏にレスターから加入したベルギー代表DFは、当初こそ序列に苦しみ、ケニー・テテの存在に阻まれて出場機会が限られていた。しかし、2024-25シーズン後半から徐々に信頼を取り戻し、今季2025-26シーズンは開幕から安定したパフォーマンスを披露している。
彼のキャリアにおいて大きな転機となりかけたのが、2025年夏の移籍市場。イタリアの名門ユベントスが獲得に動いたと報じられ、本人も「興味はあった」と認めている。しかし、フラムが代役を確保できなかったため交渉は成立せず、残留が決まった。
多くの選手なら落胆してもおかしくない状況だが、カスターニュは「後悔はない」と語り、むしろフラムでの再起を誓った。その姿勢は、プロフェッショナルとしての覚悟を示すものだった。
今季ここまでのプレミアリーグでの出場時間はすでに300分を超え、公式戦でも継続的に起用されている。特に9月のチェルシー戦では、守備での粘り強さと攻撃参加のバランスが光り、ファンから高い評価を受けた。
ユベントス移籍が実現していれば、セリエAで新たな挑戦をしていたかもしれない。しかし、残留したことで彼はプレミアリーグという世界最高峰の舞台で再び自らの価値を証明する機会を得たのだ。
テテとの競争と戦術的な役割の違い
フラムにおけるカスターニュの立場を語る上で欠かせないのが、ケニー・テテとの競争だ。テテは対人守備の強さと安定感で評価され、マルコ・シウバ監督の信頼を長く勝ち取ってきた。一方、カスターニュは攻撃参加の積極性とポジショナルな柔軟性に特徴がある。両者は同じ右サイドバックでありながら、プレースタイルが大きく異なるため、監督の戦術プランによって起用が変わる。
カスターニュ自身も「調子が良くても、システムに合わなければ出場できない」と語っており、単純な実力比較ではなく、戦術的な適合性が出場機会を左右していることを認めている。これは現代サッカーにおける重要なテーマであり、選手の評価が単なるパフォーマンスだけでなく、戦術との相性によって大きく変わることを示している。
今季のフラムは、シウバ監督が相手によって戦術を柔軟に変える傾向を強めており、カスターニュのユーティリティ性はますます重要になっている。右サイドバックだけでなく、時には右ウイングバックや左サイドでも起用され、チームのオプションを広げているのだ。
クラブでの競争に加え、カスターニュはベルギー代表でも重要な役割を担っている。2026年ワールドカップ欧州予選に向けた代表活動では、ドメニコ・テデスコ前監督からリュディ・ガルシア監督へと指揮官が変わった後も継続的に招集されている。代表では主に右サイドバックとして起用されるが、3バックの右や左でもプレーできる柔軟性が評価されている。
代表での経験は、フラムでのプレーにも還元されている。特に国際舞台での強度の高い試合を通じて、守備時の集中力や攻撃時の判断力が磨かれ、プレミアリーグでの安定感につながっている。
今後の展望と移籍市場での注目度
カスターニュのパフォーマンスが続けば、再び移籍市場で注目を集める可能性は高い。ユベントスの関心は一度途切れたが、セリエAやブンデスリーガのクラブが新たに動く可能性もある。さらに、プレミアリーグ内でも上位クラブがサイドバックの補強を検討する際、彼の名前がリストに挙がることは十分に考えられる。
フラムにとっては、彼を手放すかどうかが次の移籍市場で大きなテーマになるだろう。クラブの野心と選手のキャリアのバランスをどう取るか。これは、プレミアリーグ中堅クラブが常に直面する課題でもある。
個人的な見解
ティモシー・カスターニュのキャリアは、サッカー選手にとって「環境」と「適応力」がいかに重要かを示している。
ユベントス移籍が実現していれば、彼は異なるキャリアを歩んでいたかもしれない。しかし、フラムに残ったことで、プレミアリーグという最高の舞台で再び自らを証明する機会を得た。これは偶然ではなく、彼自身の冷静さとプロ意識が導いた結果だと感じる。
また、テテとの競争は単なるポジション争いではなく、戦術的な役割の違いが絡む複雑なものだ。現代サッカーでは、選手がどれだけ多様な役割をこなせるかが評価の基準となる。カスターニュはその柔軟性を武器に、フラムでの地位を確立しつつある。
個人的には、彼が今季を通じて安定したパフォーマンスを積み重ねれば、再び移籍市場で大きな注目を浴びると確信している。
フラムにとっては、彼を手放すかどうかが次の移籍市場で大きな決断となるだろうが、少なくとも今季の戦いにおいては、カスターニュの存在がチームの安定と可能性を支えていることは間違いない。

