トッテナム・ホットスパーが最も注目する若手のひとりが、クロアチア出身のセンターバック、ルカ・ヴシュコヴィッチ。2023年にハイドゥク・スプリトからわずか16歳で獲得された際、移籍金は1200万ポンド。クラブが未来の守備を託す存在として迎え入れた逸材は、今季ハンブルガーSVにレンタルされ、ブンデスリーガの舞台で堂々たるパフォーマンスを披露している。
現地ではすでに「Air Vuskovic」と呼ばれるほど空中戦で圧倒的な強さを誇り、9月にはDFLが選出する“ルーキー・オブ・ザ・マンス”を受賞。ファン投票・クラブ関係者・専門家の三者から高い評価を受け、18歳にしてリーグ全体の注目株となった。
では、トッテナムはこの逸材をいつ呼び戻すのか。ここに関わるのが、特殊な“リコール条項”だ。ドイツメディア『Hamburger Morgenpost』によれば、トッテナムが冬にリコールできるのは、クラブのセンターバック2人が深刻な負傷を負った場合に限られる。
軽度の肉離れや短期離脱では発動されず、長期欠場が前提条件となる。さらに、リコールを行う場合は1月前半にHSVへ通知し、金銭的補償を支払う必要がある。
ハンブルガーSVで磨かれる守備者としての資質
ヴシュコヴィッチのプレースタイルは、高さ頼みのセンターバックではない。193cmを超える体格を持ちながら、足元の技術と展開力に優れ、ラインを押し上げる現代的な守備者としての資質を備えている。データ面でも、空中戦勝率は70%を超え、1試合平均のクリア数はリーグ上位に位置する。さらに、パス成功率は85%前後を記録し、後方からのビルドアップでも信頼を得ている。
ハンブルガーSVにとっても、ヴシュコヴィッチの存在は重要すぎる。守備の安定感をもたらすだけでなく、チーム全体の戦術的柔軟性を高めている。加入以降、HSVはセットプレーでの失点が減少し、守備ラインの統率力も向上した。クラブ首脳陣は「シーズンを通して彼を手元に置きたい」と強調しており、短期でのリコールを望んでいないことは明白。
トッテナムの思惑と未来への展望
トッテナムは今季、トーマス・フランク監督の下でプレミアリーグ上位を争っている。守備陣にはクリスティアン・ロメロやミッキー・ファン・デ・フェンといった主力が健在で、現時点で緊急的にヴシュコヴィッチを呼び戻す必要性は低い。むしろ、クラブの本音は「今季を通してハンブルガーSVで成長を遂げさせたい」というもの。
ただし、トッテナムは完全にリコールを否定しているわけではない。もし主力センターバックが長期離脱する事態に陥れば、ヴシュコヴィッチを呼び戻す選択肢は現実味を帯びる。ただし、現状のチーム状況を踏まえれば、冬の移籍市場で即戦力のセンターバックを補強する方が現実的だろう。
むしろ重要なのは、ヴシュコヴィッチが来季どのような立場でトッテナムに戻るかだ。今季を通してブンデスリーガでフルシーズンを戦い抜けば、彼は“将来の守備の柱候補”ではなく、“すでに完成度の高いセンターバック”としてロンドンに帰還することになる。その時、トッテナムの守備陣に新たな競争が生まれ、クラブ全体のレベルアップにつながるはずだ。
個人的な見解
ルカ・ヴシュコヴィッチのケースは、若手育成と即戦力確保の狭間で揺れるクラブの葛藤を象徴している。トッテナムにとって、彼は未来の守備の大黒柱であることは疑いようがない。
しかし、18歳という年齢を考えれば、今季を通してハンブルガーSVで試合経験を積むことが、長期的には最も大きなリターンをもたらすはずだ。
ブンデスリーガという競争の激しい環境で、毎週90分間の実戦を重ねることは、プレミアリーグのベンチで数分間を過ごすよりもはるかに価値がある。
個人的には、トッテナムがリコール条項を発動する可能性は極めて低いと見ている。仮に主力センターバックが負傷したとしても、冬の移籍市場で即戦力を補強する方が現実的だろう。
ヴシュコヴィッチは今、ドイツで自らの名を刻みつつある。彼が来季ホワイト・ハート・レーンに戻るとき、ファンは“未来の守備大黒柱”ではなく、“すでに完成度の高いセンターバック”として迎えることになるのではないか。
トッテナムにとっても、そして彼自身にとっても、そのシナリオこそが最も理想的な未来図だと確信している。
