ユニフォームの背番号が語るものがあるとすれば、バイエルン・ミュンヘンの“10番”は、未来を託された若き天才ジャマル・ムシアラのものだ。そしてその未来を守るために、クラブはマンチェスター・ユナイテッドのキャプテン、ブルーノ・フェルナンデスへの関心を明確に否定した。
ドイツの名門バイエルンがブルーノ・フェルナンデス獲得に動くという噂が一部で流れたが、ドイツ紙『BILD』のチーフ記者クリスティアン・ファルクがこれを完全否定。
彼によれば、バイエルンがフェルナンデスに関心を示さない理由は明快。ひとつは経済的な事情。フェルナンデスの週給は約30万ポンドとされており、現在のバイエルンが進める給与構造の見直しに逆行する。
もうひとつは戦術的な理由。バイエルンはフェルナンデスを“純粋な10番”と見なしており、そのポジションはムシアラが完全復帰すれば確実に担うと考えている。
フェルナンデスの価値とバイエルンの戦略的無関心
ブルーノ・フェルナンデスは2020年1月にスポルティングCPからユナイテッドに加入して以来、公式戦で100ゴール以上を記録し、プレミアリーグ屈指のプレーメイカーとしての地位を築いてきた。
1歳となった今も、ルベン・アモリム新体制の下で3-4-3の中盤における創造性の核として君臨している。特に2025年10月のリヴァプール戦では、アウェイのアンフィールドで2-1の勝利に導く決定的なパフォーマンスを披露し、その価値を改めて証明した。
しかし、バイエルンはその輝きに目を奪われることはなかった。クラブは今夏、マテウス・クーニャやブライアン・エンベウモといった新戦力を加え、攻撃陣の再編を進めている。フェルナンデスのような即戦力を加えるよりも、ムシアラを中心とした中長期的なビジョンを優先するという明確な方針があるのだ。
“10番”の継承者ムシアラと、バイエルンの未来設計図
ムシアラは現在負傷離脱中だが、クラブは彼を“10番”の中心に据える構想を崩していない。セルジュ・ニャブリがその穴を埋めているものの、あくまで暫定的な措置に過ぎない。ムシアラが完全復帰すれば、再び攻撃のタクトを握るのは彼だ。バイエルンにとって、フェルナンデスの加入はこの構想を揺るがすリスクを孕んでいた。
さらに、フェルナンデスのプレースタイルは、ボールを引き出し、縦に刺すパスでリズムを作る“支配型”の10番。一方でムシアラは、ドリブルとポジショニングで相手の守備網を切り裂く“流動型”の10番だ。バイエルンの現在の戦術――特にトゥヘル体制以降の可変的な4-2-3-1や3-4-2-1では、後者の方がフィットしやすい。
また、フェルナンデスはサウジアラビアからの巨額オファーを断っており、競争志向の強さを見せているが、それでもバイエルンが7000万ポンド以上の移籍金と高額年俸を支払う理由は見当たらない。クラブは“スターの名声”よりも戦術的適合性と財政健全性を重視しているのだ。
個人的な見解
フェルナンデスという実績十分な選手を前にしても、ムシアラという未来を優先する姿勢は、育成と戦術の両面での一貫性を感じさせる。これは、短期的な成功よりも、長期的な競争力を重視するバイエルンらしい選択だ。
一方で、フェルナンデスにとってもこの“拒絶”は屈辱ではない。むしろ、彼の価値がユナイテッドという舞台で最大限に発揮されている証左だ。アモリムの下での役割は明確で、彼の創造性はチームの命脈を握っている。
今後、ユナイテッドが再び欧州の頂点を目指すならば、その中心には間違いなくフェルナンデスがいる。バイエルンが選ばなかったのではなく、フェルナンデスが“選ばれるべき場所”に既にいるのだと、私は信じている。
