アヤックスの中盤を支えるケネス・テイラーは、今夏ウェストハム・ユナイテッドの補強リストの最上位に位置していた。23歳のオランダ代表MFは、プレミアリーグへのステップアップを望み、クラブ側とも退団に向けた話し合いを重ねていた。
だが、移籍は成立しなかった。海外メディア『ESPN NL』の報道によれば、アヤックスは当初の合意を反故にし、テイラーに対して過剰な移籍金を要求。ウェストハムはその条件を呑むことなく、交渉は決裂した。
この一件は、アヤックスの苦境とテイラーの野心が交錯した象徴的なエピソードだ。クラブは現在、エールディヴィジで順位を落とし、戦力の流出を極端に嫌っている。テイラーは今季すでに9試合に出場し、2ゴール2アシストを記録。中盤の潤滑油として、攻守両面でチームに安定をもたらしている。彼の放出は、アヤックスにとって自殺行為に等しかった。
ケネス・テイラーの数字に裏打ちされた万能性
テイラーの魅力は、単なるスタッツ以上にプレーの質にある。ボールを持った瞬間の判断力、スペースを見つける嗅覚、そして守備時のポジショニング。彼はピッチ上で常に最適解を選び続ける。今季のパス成功率は89.3%、タックル成功率は76.5%。これらの数字は、彼が単なるテクニシャンではなく、実戦で結果を出せる選手であることを示している。
また、彼のプレーにはオランダ的な構築美と、プレミアリーグ的なフィジカル強度が融合している。中盤の底から前線へとボールを運ぶ推進力は、ウェストハムが求めていた「ゲームメイカー像」にぴたりと合致する。市場価値は2800万ユーロと見られ、これは同世代のオランダ代表選手の中でもトップクラスの評価だ。
ウェストハムは2025/26シーズン、グレアム・ポッター監督の下で再構築を進めている。だが、開幕からの戦績は芳しくなく、10月時点でプレミアリーグ19位に沈んでいる。特に中盤の構成に課題があり、ボールを前進させる役割を担える選手が不足している。
ポッター監督が解任され、ヌーノ・エスピーリト・サント監督に代わり、目指すサッカーが変わるため、再びケネス・テイラーに接触するかは未知数だが、彼がウェストハムへの移籍を希望していたという報道も、クラブにとっては大きな追い風だったはず。
アヤックスの選択、クラブの存続と選手の夢の狭間で
アヤックスは今季、フェイエノールトやPSVに大きく遅れをとっている。リーグ順位は4位前後に位置しているものの、首位からは9ポイントも離されている。こうした状況下で、テイラーのような中心選手を手放すことは、クラブの競争力をさらに削ぐことになる。
アレックス・クローズ技術部長は、テイラーとの話し合いの中で「クラブの未来を担う選手」としての位置づけを強調したとされる。だが、選手本人はプレミアリーグという舞台で自身を試したいという強い意志を持っていた。このすれ違いが、移籍交渉の破綻を招いた。
今夏、ウルヴァーハンプトンもテイラーに関心を示していたが、選手はウェストハムへの移籍を優先していた。ウルヴズは中盤にタレントを揃えているが、テイラーが主軸として起用される保証はなかった。
個人的な見解
ケネス・テイラーの移籍未遂は、現代サッカーにおける “選手の夢” と “クラブの現実” がぶつかり合う典型例と言える。
アヤックスはクラブの再建を優先し、テイラーはキャリアの飛躍を望んだ。どちらも間違っていない。だが、結果として失われたのは、ウェストハムの中盤に新たな命を吹き込む可能性だった。
個人的には、テイラーが来夏こそプレミアリーグに挑戦することを期待している。
彼のような選手が、ウェストハムのような再建途上のクラブで中心となることで、チームも選手も飛躍できるはず。
アヤックスが今季の成績次第で方針を転換する可能性もある。そのとき、ウェストハムは再び動くべきだ。テイラーの才能は、ロンドンの空にこそ映える。
