ワトフォードのホーム、ヴィカレージ・ロードで異次元の輝きを放つ20歳のアイルランド代表、ロッコ・バタ。この若きアタッカーを巡る激しい綱引きが、水面下で繰り広げられている。
トルコの情報通エクレム・コヌール氏によれば、プレミアリーグのクリスタル・パレスとフラムが獲得レースの最前線を走り、その後方からはアタランタ、ガラタサライ、アイントラハト・フランクフルトといった欧州の強豪が虎視眈々と隙を窺う。
2024年の夏、スコットランドの名門セルティックを離れ、あえてイングランド2部(チャンピオンシップ)という修羅場を選んだロッコ・バタの選択は、完全に正しかったと証明された。加入から1年半で公式戦47試合に出場し、12ゴールに絡む数字を残している。今シーズンも既に4つのゴールに関与し、チームが苦しい状況にあっても、彼だけは別格の存在感を放ち続けている。
イーグルスの育成メソッドとコテージの破壊力不足、ロンドン勢の思惑
クリスタル・パレスがロッコ・バタに照準を定めた事実は、彼らのスカウティング戦略がいかに一貫しているかを物語る。南ロンドンの雄、イーグルスには、マイケル・オリーセやエベレチ・エゼ、アダム・ウォートンといった「チャンピオンシップの原石」を安価で獲得し、リーグを代表するスターへと磨き上げる確固たる哲学がある。
ロッコ・バタは、この成功の方程式に完璧に合致する素材だ。20歳という若さは、パレスが得意とする即戦力兼将来のコアという枠組みにすっぽりと収まる。圧倒的な加速力と、強引にシュートコースをこじ開けるプレースタイルは、セルハースト・パークの熱狂的なサポーターを虜にするだろう。
本人にとっても、出場機会を確保しながらプレミアリーグの水に慣れるためのステップとして、パレス以上の環境は見当たらない。
一方、西ロンドンのフラムはより切迫した事情を抱えている。マルコ・シウバ監督が展開する魅力的な攻撃サッカーは健在だが、フィニッシュの局面での迫力不足が課題として浮上しているからだ。
特に自身の去就に関する契約交渉が進行する中、指揮官が求めているのは、前線に即座に変化をもたらす劇薬である。ロッコ・バタの縦への推進力と、どんな体勢からでもゴールを狙う貪欲さは、現在のフラムに欠けている獰猛さを補完する要素になり得る。
クレイヴン・コテージのピッチで、ボールを持てば何かが起きるという期待感は、チーム全体に新たなエナジーを注入するはず。ロンドンのライバル同士によるこの争奪戦は、資金力の勝負を超え、どちらがより魅力的なキャリアパスを提示できるかという「プロジェクトの質」を問う戦いへと発展している。
欧州包囲網と2000万ポンドの価値、リスクを冒してでも掴みたい才能
この移籍劇を複雑にしているのは、ドーバー海峡を越えた欧州大陸からの熱視線だ。イタリアのアタランタ、ドイツのフランクフルト、そしてトルコのガラタサライ。これら3クラブは、いずれも若手の市場価値を高めて売却するビジネスモデルに長けているか、あるいは国内リーグで優勝を争う強豪だ。
特にアタランタは選手を戦術的なマシーンへと進化させることで知られており、ここでレギュラーを奪えば選手としての格は数段階跳ね上がる。フランクフルトもまた、ブンデスリーガ特有のオープンな展開で若手アタッカーが躍動する土壌があり、ロッコ・バタのようなタイプには垂涎の環境だ。
ワトフォードが設定したとされる2000万ポンドというプライスタグは、2部リーグの選手としては破格の設定。加えて、彼にはハムストリングの負傷歴という、スピードスターにとってはアキレス腱となり得る不安要素も付きまとう。
しかし、現代フットボール市場において独力で試合を決められる20歳の価値は青天井であり、この金額すら数年後には安かったと評価される可能性が高い。
5つのクラブは、怪我のリスクを承知の上で、それ以上のリターンを見込んで動いている。ワトフォードとしても、クラブの財政バランスを整えるために、評価額がピークにあるこの冬に売却へ踏み切る公算が高い。
個人的な見解
ロッコ・バタにとっての「正解」はクリスタル・パレスへの移籍だろう。近年のパレスは、チャンピオンシップからのステップアップ組を主力に定着させるノウハウにおいて、他の追随を許さない。
フラムや欧州のクラブも魅力的だが、特にアタランタのような特殊な戦術体系を持つチームへの移籍は、適応に失敗した場合のリスクが大きすぎる。
パレスであれば、オリヴァー・グラスナー監督が志向するインテンシティの高いフットボールの中で、彼の推進力は即座にチームの武器として機能するだろう。
ただし、2000万ポンドという金額に対する懸念は拭えない。ハムストリングの怪我は再発のリスクが高く、爆発的なスプリントを武器にする選手にとっては選手生命を左右する爆弾。獲得クラブのメディカルチェックは、通常の何倍も慎重に行われることになるだろう。
それでも、私が強化担当者なら迷わずゴーサインを出す。ピッチ上で彼が見せる、相手DFを恐怖に陥れるあの威圧感と、ゴールへ向かう野性的な本能は、トレーニングで教えられるものではないからだ。本物の才能は、常にリスクと隣り合わせにある。
1月1日、移籍市場が開いた瞬間に、誰が最初に彼の手を取るのか。その結末を見届けるのが今から楽しみでならない。
