決別の冬!?スケープゴートにされた英雄モハメド・サラーが向かう中東の蜃気楼

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決別の冬!?スケープゴートにされた英雄モハメド・サラーが向かう中東の蜃気楼 Liverpool

かつてこれほどまでに凍てつくようなアンフィールドの空気を、我々は知っているだろうか。マージーサイドの冷たい海風のせいではない。ピッチの上で繰り広げられる惨劇と、その裏側で進行する「英雄の排除」という冷徹なドキュメントが、ファンの心から熱を奪っている。

リヴァプールは崩壊の危機に瀕している。これまでの栄光を一身に背負ってきたモハメド・サラーが、公然とクラブ批判を展開し、冬の移籍市場での退団が既定路線となりつつある。これは単なる移籍報道ではない。ひとつの偉大な時代の、あまりにも悲劇的で血なまぐさい幕切れの予兆だ。

モハメド・サラーに対しアル・ヒラルとサンディエゴFCが獲得へ猛進

事態は急速に動いている。海外メディア『Give Me Sport』が報じた内容によれば、サウジアラビアの巨人アル・ヒラルが、来たる1月の移籍ウィンドウでサラーを確保すべく、なりふり構わぬ姿勢を見せている。さらに、北米のMLSからはサンディエゴFCも名乗りを上げ、このエジプトの王を迎え入れる準備を進めているという。

だが、我々が直視すべきは移籍先の豪華さではない。なぜ、サラーがこれほどまでにアンフィールドを去りたがっているのか、その動機の部分だ。サラー自身が投下した爆弾発言を忘れた者はいないだろう。

彼が口にしたこの言葉は、ロッカールームに走る亀裂がもはや修復不可能なレベルに達している事実を突きつけた。クラブ側はこの発言を受けてもなお、不気味なほど静観を貫いている。いや、むしろこの騒動を利用して、高額な給与を受け取るベテランを厄介払いしようとしている節さえある。

サウジアラビアのクラブは、数年前から執拗にサラーをリストアップし続けてきた。プレミアリーグで長年にわたり数字を残し、イスラム圏の英雄として君臨する彼にとって、中東への移籍はキャリアの最終章として申し分のないシナリオに見えるかもしれない。

しかし、それは本来、満場の拍手と涙に包まれて行われるべきものだったはず。今起きているのは、監督との対立によって追い出される形での逃走に近い。

アルネ・スロット監督との確執とチームが陥った泥沼の連敗地獄

すべての元凶は、ピッチ上の結果にある。リヴァプールは直近の公式戦13試合で9敗を喫するという、悪夢のような時間を過ごしている。ユルゲン・クロップが築き上げた「要塞」は見る影もなく崩れ去り、対戦相手にとってアンフィールドは勝ち点3を計算できる草刈り場と化した。この惨状の中で、アルネ・スロット監督が選択したのは、チームの顔であるサラーを断罪することだった。

スロットは直近の数試合でサラーをスターティングメンバーから外した。これを戦術的なローテーションだと受け取るおめでたいファンはもういない。これは明確なメッセージだ。「お前の時代は終わった」という、監督から選手への絶縁状に他ならない。

確かに、今シーズンのサラーにかつてのような電光石火のスピードはない。33歳という年齢は、肉体的な衰えを隠せない残酷な現実として彼の両足に重くのしかかっている。ドリブルで相手を剥がせず、ボールロストが増えているのも事実。

クラブ首脳陣の視点に立てば、パフォーマンスが低下した高給取りの33歳に対し、市場価値が残っているうちに売却して現金化したいと考えるのは経営的な正解なのだろう。冬の市場でサラーを売却し、その資金で「天井」の高い若手有望株を補強する。

スロット監督も、自らの戦術に合わないベテランを排除し、扱いやすい若手でチームを再構築したいという野心を隠そうともしない。だが、リヴァプールというクラブは、単なる企業の損益計算書だけで運営される組織だっただろうか。結果が出ない苛立ちを、長年の功労者一人に背負わせて切り捨てる。そのような冷酷な合理主義がまかり通る場所ではなかったはずだ。

個人的な見解

アンフィールドの熱狂を知る一人の人間として、今のリヴァプールの在り方には怒りすら覚える。チームが勝てない時、最も安易な逃げ道は「誰かを悪者にすること」だ。アルネ・スロットはその標的として、あろうことかリビング・レジェンドであるサラーを選んだ。

これは指導者としての資質を疑わざるを得ない悪手。9敗もするチームの責任は、ピッチに立つ選手全員、そして何より指揮官自身にある。それを特定の個人の衰えのせいにして責任転嫁を図る姿勢は、あまりにも潔くない。

もし1月にサラーが去ることになれば、リヴァプールは貴重な得点源を失うだけでなく、クラブの魂の一部をも失うことになるだろう。サラーが不満を爆発させたのは、彼自身のプライドの問題だけではない。クラブから敬意を払われていないという欠落感が、彼を追い詰めた。

たとえパフォーマンスが落ちていたとしても、彼がこの街とクラブに捧げてきた情熱とゴールは、何物にも代えがたい財産。それをドブに捨てるような別れ方を強いるクラブに、未来はあるのだろうか。

サラーが去った後、残されたのは「英雄を追い出した監督」と、魂の抜けたチームだけという最悪の結末だけは避けてほしいと願うばかりだ。この冬、アンフィールドにはあまりにも冷たい風が吹いている。