2025年の師走、タイン川から吹き付ける冷たい風とは対照的に、セント・ジェームズ・パーク周辺の空気は熱を帯び始めている。1月に開く冬の移籍マーケット開幕に向け、エディ・ハウ率いるニューカッスル・ユナイテッドが、プレミアリーグの序列を覆すための策を用意した。
ターゲットは、カタルーニャの太陽の下でプレーするスペイン代表FWフェラン・トーレス。既存戦力の拡充程度では満足しないマグパイズの上層部は、かつてマンチェスター・シティでプレミアの激しさを肌で知るこの万能アタッカーに対し、7500万ポンドという記録的な資金を投じる構えを見せていると、スペイン紙『Fichajes』が報じた。
ニューカッスルがフェラン・トーレスに執着する理由と7500万ポンドの正当性
スペインから飛び込んできた今回のニュースは、瞬く間にイングランド全土を駆け巡った。7500万ポンドという金額は、実績あるワールドクラスのストライカーに匹敵する額であり、ニューカッスルがいかに本気であるかを如実に表している。
彼らが求めているのは、前線のあらゆるエリアに顔を出し、得点とチャンスメイクの両面で違いを生み出せる現代的な破壊者だ。フェラン・トーレスは、左右のウイングはもちろん、偽9番や純粋なストライカーとしても機能する。この戦術的な柔軟性は、過密日程と強度の高いプレッシングが支配するプレミアリーグにおいて、黄金のような価値を持つ。
だが、この巨額オファーの裏には、ニューカッスルが直面している差し迫った事情がある。チームの主軸であるハーヴィー・バーンズに対し、マンチェスター・ユナイテッドやチェルシーといった国内のライバルたちが触手を伸ばしている。
もしバーンズが引き抜かれるような事態になれば、チームの攻撃力低下は避けられない。ハフィーニャ(バルセロナ)への関心も噂されたが、彼自身のクラブ愛や他クラブとの競合を考慮すると、獲得のハードルはあまりに高い。
そこで白羽の矢が立ったのがフェラン・トーレス。バーンズの穴を埋めるどころか、チャンピオンズリーグ経験も豊富な彼を加えることで、チームの格を一気に引き上げようという算段が透けて見える。ニューカッスルは、この冬のマーケットを、クラブの歴史を変える転換点にしようとしているに違いない。
バルセロナの台所事情とハンジ・フリック監督のジレンマが生む放出の可能性
バルセロナ側の視点に立つと、この話はさらに現実味を帯びてくる。フェラン・トーレスとバルセロナの契約は2027年夏までとなっている。つまり、契約満了まで残り1年半という、クラブにとって最も神経を使う時期に突入している。
これ以上時間をかければ、移籍金は下落の一途をたどる。財政的な古傷がいまだに癒えないバルセロナにとって、準レギュラークラスの選手に7500万ポンドの値札がつくことは、経営陣が小躍りするほどの好材料。
ピッチ上では、ハンジ・フリック監督の下でフェランはその有用性を証明してきた。「鮫」の愛称で親しまれる彼は、献身的なプレスと裏への鋭い飛び出しで、フリックの志向する縦に速いフットボールに貢献している。指揮官としては手元に残しておきたい駒であることは疑いようがない。
しかし、クラブの経営健全化という大義名分の前では、現場の要望が飲み込まれることも珍しくない。特に1月の市場でこれほどの利益を確定できるのであれば、ジョアン・ラポルタ会長が決断を下す可能性は極めて高い。
ニューカッスルはその足元を見透かした上で、バルセロナが断れないレベルのオファーを準備しているのだ。契約延長のニュースが聞こえてこない現状は、彼の未来がカンプ・ノウ以外の場所にあることを静かに示唆している。
個人的な見解
この7500万ポンドという数字には眩暈を覚える。フェラン・トーレスが良い選手であることに異論はない。戦術理解度が高く、どの監督にとっても使い勝手の良い選手だ。しかし、彼がメッシやハーランドのように、独力で試合の運命を決定づける「絶対的な個」であるかと言えば、答えはNO。
決定機での淡泊さや、消える時間の多さは依然として課題として残っている。ニューカッスルが提示しようとしている金額は、彼の実力に対する適正価格というよりは、プレミアリーグ特有のインフレと、冬の市場における「緊急配備手当」が多分に含まれたものだと解釈すべきだろう。
それでも、この移籍が成立すれば、全ての関係者にとって ”Win” となる取引に見える。バルセロナは喉から手が出るほど欲しい資金を得て、スカッドの整理ができる。ニューカッスルはエディ・ハウのハードワークを厭わないスタイルに合致する即戦力を手に入れ、後半戦の巻き返しに向けた強力なエンジンを搭載できる。
そしてフェラン・トーレス自身にとっても、慣れ親しんだイングランドで、明確な主役として扱われる環境はキャリアの再浮上に最適な舞台となる。金額の是非はさておき、両クラブの利害がここまで一致する案件はそう多くない。タイン川のほとりで、スペインの「鮫」が再び牙を剥く日は近いのかもしれない。
