独『Sport BILD』が発信した「リヴァプール、ニコ・シュロッターベックへの関心を終了」という報道は、一部のKOPが抱いていた淡い期待を完全に凍結させた。来たる1月の移籍市場、そして後半戦のタイトルレースを見据えた守備陣の補強において、長らくリストの上位に記されていたはずの名前が、突如として消し去られた。
この動きは、アルネ・スロット体制2年目を迎えたリヴァプールが、守備陣に求める基準を再定義した明確なサインだ。ターゲットの変更という戦術的な修正ではなく、クラブの哲学そのものが研ぎ澄まされた瞬間なのかもしれない。
排除された「リスク」:スロット・ボールに不協和音はいらない
同紙の報道内容を精査すると、リヴァプール首脳陣は1月のオファー提示を見送るだけでなく、シュロッターベックという選択肢そのものを「現在のプランに合致しない」として完全に破棄したと読み取れる。
ドルトムントで主力を張るこのドイツ代表CBは、確かに魅力的な武器を持っている。左足から放たれる対角線のフィード、ドリブルでの持ち上がりは、閉塞した局面を打破する強力なオプションになり得た。2024年の夏、そしてこの冬にかけて彼待望論が止まなかったのは、その攻撃性能ゆえだ。
だが、2025/26シーズンのリヴァプールがつくり上げているフットボールを直視すれば、この「撤退」の理由が鮮明に浮かび上がる。スロット監督が就任以来、チームに植え付けたのは「狂気的なカオス」ではなく「冷徹なコントロール」。今シーズンのリヴァプールは、ボール保持時のリスク管理を極限まで高め、不用意なロストからのカウンターを許さない。ここでシュロッターベックのプレースタイルがネックとなる。
彼のスタッツは優秀だが、その裏には常に「ギャンブル」が潜む。インターセプトを狙って不用意に飛び込む癖、最終ラインからの持ち上がりで生じる背後のスペース。ブンデスリーガのようなオープンな展開では英雄になれるプレーも、プレミアリーグの、とりわけリヴァプールのようなハイラインを敷くチームでは致命傷になりかねない。
フィルジル・ファン・ダイクとイブラヒマ・コナテと個の能力に頼った火消しではなく、組織としての堅牢なブロック形成。ここに計算できない「ゆらぎ」を持ち込むことを、スロットとリクルートメント部門は拒絶した。彼らが求めているのは、派手な攻撃参加ではなく、90分間一度も心拍数を上げずに完封するような、退屈なまでの安定感なのだ。
また、獲得コストとリターンの不均衡も無視できない。ドルトムントが要求するであろう巨額の移籍金は、彼の抱える守備リスクやプレミアリーグへの適応期間を考慮すると、あまりに高すぎる。リヴァプールの強化部は、チームの現状や感情、世論に流されることなく、データという冷たい物差しで「NO」を突きつけた。
「左利き」という幻想との決別、そして内部に見出す解
「左利きのセンターバックが必要だ」…このフレーズは、過去数シーズンにわたり呪文のように唱えられてきた。ビルドアップの角度を作り、スムーズな展開を可能にするという理屈は正しい。しかし、今回のシュロッターベック撤退は、クラブがこの「左利き神話」に固執していない事実を露呈させた。
2025/26シーズンのビルドアップ構造を見れば、その理由は明白だ。アレクシス・マック・アリスターやライアン・フラーフェンベルフが最終ラインに落ち、あるいは両サイドバックが偽の動きを見せることで、CBの利き足に依存しないパスルートが無数に構築されている。
ファン・ダイクは右利きでありながら左サイドへの展開において世界最高峰の精度を誇る。つまり、システムと個のスキルの向上によって、「左利きのCB」は絶対条件から「あれば嬉しいオプション」へと格下げされたのだ。
リヴァプールの補強戦略は常に「価値の付加」に基づいている。既存の選手よりも明らかに優れた選手、あるいは将来的に彼らを超えるポテンシャルを持つ選手でなければ動かない。シュロッターベックは素晴らしい選手だが、現在のアンフィールドの基準、特にスロットが求める精密機械のような守備組織においては、「アップグレード」にはなり得ないと判断された。
この冬、我々が目にするのはパニックバイではなく、静寂か、あるいは全く別の予期せぬ名前の浮上だろう。スカウティングチームの目は、すでにブンデスリーガのスターではなく、南米の原石や、リーグ・アンの戦術的な若手へと向けられている可能性が高い。
個人的な見解
ニコ・シュロッターベックの左足が描く放物線には確かにロマンがある。彼がアンフィールドのピッチで攻撃のタクトを振るう姿を夢想しなかったと言えば嘘になる。しかし、今のリヴァプールに必要なのはロマンではなく、タイトルを確実に手繰り寄せるためのリアリズムだ。
シュロッターベックの守備における軽さは、クロップ時代の「殴り合い上等」のフットボールなら許容されたかもしれない。だが、スロットが狙う、窒息するようなプレッシングと完璧なポジショニングをベースとする今のチームにおいて、彼は異物となりかねないリスクを孕んでいた。
彼を獲得リストから外したという事実は、クラブが明確なビジョンを持ち、現在の好調さに慢心することなく、シビアにスカッドを分析している証拠と言える。
補強がない冬は退屈かもしれない。メディアが騒ぎ立てるビッグネームが来ないことに不満を漏らすファンもいるだろう。だが、過去を振り返ってほしい。
アリソン・ベッカーやフィルジル・ファン・ダイクを獲得するために、妥協せず半年間待ち続けたあの忍耐こそが、黄金期を築いた。今回の「撤退」もまた、来るべき真のワールドクラス、あるいは次世代のディフェンスリーダーを迎えるための、必要な「余白」を作る作業なのだと私は信じる。
