ロンドンの凍てつくような寒風を切り裂く、熱いニュースが舞い込んできた。昨夏の移籍市場でクリスタル・パレスサポーターが味わった悔恨、あの「あと一歩」の感覚が、今度こそ歓喜へと変わるかもしれない。
ポルトガルの有力紙『A Bola』が報じた内容によれば、スポルティング・リスボンの若き守備の要、ウスマン・ディオマンデがクラブからの契約延長オファーに抵抗を示している。これは、南ロンドンのイーグルスにとって、夏の雪辱を果たすための号砲に他ならない。
22歳のコートジボワール代表センターバックは、2027年までの現行契約に加え、2030年までの延長と年俸倍増という好条件を提示された。しかし、彼は首を縦に振らなかった。この決断は、彼がリスボンの快適な環境よりも、世界最高峰のプレミアリーグでの挑戦を渇望している証だ。
セルハースト・パークのフロントはこの機を逃さないだろう。昨夏、5500万ユーロもの巨額オファーを提示しながらも、8000万ユーロという強気なリリース条項の前に涙を飲んだパレス。だが、選手側が延長を拒んだ今、交渉の主導権は確実に買い手側へと傾きつつある。
5500万ユーロの拒絶を乗り越えて…イーグルスの執念と勝算
なぜパレスはここまでディオマンデに執着するのか。その答えは、オリヴァー・グラスナー監督が志向するフットボールの完成図にある。高いディフェンスラインを設定し、前線から激しいプレスをかけるスタイルにおいて、広大な背後のスペースを独力でカバーできるスピードと、ビルドアップの局面でミスのない配球ができるセンターバックは必要不可欠。
ディオマンデはそのすべての条件を高次元で満たす。昨夏、パレスがクラブレコード級の資金を用意したのは、彼こそがマルク・グエイの後継、あるいは新たな守備のリーダーになり得ると確信していたからだ。
今回の報道で重要なのは、ディオマンデ陣営が「2026年ワールドカップ」を見据えている点。市場価値がピークに達するであろう大会前に、より競争力の高いリーグで自身を磨きたいという野心が透けて見える。
スポルティングにとっても、契約が残り1年となる2026年夏まで粘られれば、足元を見られ安値で叩かれるリスクが生じる。つまり、この冬、あるいは来夏こそが、適正価格で売却できる最後のチャンスとなる。
パレスの強化部門は、このタイミングを虎視眈々と狙っていたに違いない。5500万ユーロという数字はもはや拒絶される額ではなく、交渉を成立させるための十分なベースラインとなるはず。
アモリムの影とニューカッスルの資金力:激化する争奪戦
もちろん、この才能を放っておくほど欧州のスカウト網は甘くない。ニューカッスル・ユナイテッドも獲得レースに参戦しており、さらに不気味なのがマンチェスター・ユナイテッドの存在。
オールド・トラッフォードでは、かつての恩師ルベン・アモリムが指揮を執っており、彼の戦術を知り尽くしたディオマンデを呼び寄せようと画策している。資金力やクラブの格で比較すれば、パレスは分が悪い。
しかし、パレスには「明確なプロジェクト」と「即時的な主力待遇」という武器がある。マンチェスターやニューカッスルでは激しいポジション争いが待っているが、パレスならば即座に最終ラインの将としてチームを統率する権限が与えられるだろう。
アダム・ウォートンやエベレチ・エゼらが証明したように、パレスは若き才能がプレミアリーグに適応し、さらに上のステージへ飛躍するための最高のプラットフォームとして機能している。
ディオマンデも、いきなりメガクラブのプレッシャーに晒されるより、ロンドンの中堅クラブで確固たる地位を築くキャリアパスに魅力を感じるはず。さらに、ロンドンという立地も、選手の決断を後押しする大きな要因となり得る。
個人的な見解
この移籍劇は、クリスタル・パレスというクラブが次のフェーズへ進めるかどうか試すものになり得る。
昨夏の時点で5500万ユーロを提示したという事実自体が、スティーブ・パリッシュ会長の本気度を物語っている。かつてのように「安く買って高く売る」だけでなく、「必要な即戦力には大金を投じる」という野心が、このディオマンデ獲得の動きには宿っている。
もし、マンチェスター・ユナイテッドやニューカッスルとの競合を制して彼を獲得できれば、パレスが欧州カップ戦出場権を本気で狙うコンテンダーであるという強烈なメッセージになる。
戦術的な視点で見ても、ディオマンデの加入はパレスの守備を一変させる力がある。現在、プレミアリーグのアタッカーたちは年々高速化しており、フィジカルとスピードで対抗できるCBの枚数は順位に直結する。
ディオマンデの持つ、相手を弾き飛ばすような対人能力と、涼しい顔でプレスを回避する足元の技術は、グラスナーの戦術に不可欠なピースだ。
マルク・グエイの去就がどうあれ、このクラスのタレントを確保することは、クラブの未来にとって必須事項だと断言できる。冬のウィンドウが開く1月1日、イーグルスがリスボンへ向けて飛び立つ姿を、私は期待して待ちたい。
