ロンドン・スタジアムの冷たい風が、ピッチ上の停滞感をより一層際立たせている。ヌーノ・エスピーリト・サントが指揮官の座に就いて以来、ウエストハムは確かに守備の規律を取り戻した。だが、堅牢なブロックを敷きながら鋭いカウンターを繰り出す「ヌーノ・スタイル」を完遂するには、決定的なピースが欠けている。
それは、前線で孤立してもボールを収め、泥臭くゴールへの道筋を切り開くストライカーの存在だ。冬の移籍市場が目前に迫る中、ポルトガル人指揮官が強化部にリクエストした名前は、チャンピオンシップで異彩を放つアメリカ人FWジョシュ・サージェントだった。
ヌーノが求める「ラウール・ヒメネスの幻影」とサージェントの親和性
英『GiveMeSport』が報じたジョシュ・サージェント獲得のニュースは、現在のウエストハムが抱える戦術的な欠落と照らし合わせれば、極めて合点のいく話だ。ヌーノ・エスピーリト・サントという監督は、ストライカーに対して過酷なタスクを課すことで知られる。
ウルヴァーハンプトン時代のラウール・ヒメネスや、ノッティンガム・フォレストでのクリス・ウッドのように、チームの9番には「強靭なフィジカル」「献身的なプレスバック」、そして「数少ないチャンスをモノにする決定力」の三拍子が求められるからだ。
ミカイル・アントニオは長年ハマーズの「重戦車」として君臨してきたが、すでにチームを離れている。後任候補だったニクラス・フュルクルクもまた、ターゲットマンとしての資質は備えているものの、プレミアリーグの高速トランジションの中で、ヌーノが好む裏への抜け出しや、サイドに流れての起点作りにおいて物足りなさを露呈。
そこで白羽の矢が立ったのが、ノリッジ・シティのエース、ジョシュ・サージェントだ。ただのボックスストライカーではない。アメリカ代表でも見せるように、守備時には相手アンカーへのコースを切りながらセンターバックに圧力をかけ続け、攻撃に転じればアバウトなロングボールを胸で収めて味方の上がりを待つ。
汗をかける能力こそ、ヌーノが喉から手が出るほど欲している要素。チャンピオンシップという、フィジカルバトルが常態化しているリーグで揉まれ、さらにプレミアリーグでのプレー経験も持つサージェントは、ヌーノの規律重視のサッカーに即座に順応できる稀有な素材である。
1750万ポンドで買える「規律」と「強度」
報じられた1750万ポンドという移籍金は、この取引を現実的なものにしている。冬のマーケットにおいて、計算できるストライカーを2000万ポンド以下で獲得することは、本来であれば至難の業だ。
しかし、ノリッジが適切なオファーであれば売却を容認する姿勢を見せていること、そしてウエストハムが「フィジカルと経験」という明確な基準を持っていることが、この交渉を加速させている。
サージェント獲得のメリットは、戦術的なフィット感だけではない。彼の持つメンタリティもまた、ヌーノ好みなのだ。派手なテクニックやエゴイスティックなプレーを好まず、チームの勝利のために自己犠牲を厭わない姿勢。
それは、かつてヌーノがウルブスで築き上げた「組織としての強さ」を再現するために不可欠な要素。ロンドン・スタジアムのサポーターもまた、華麗なフェイントよりも、タッチライン際でボールを追いかけ回す選手の姿に心を震わせる。サージェントの泥臭いプレースタイルは、イーストロンドンの気質に驚くほどマッチする。
もちろん、2部リーグからのステップアップに対する懐疑的な声がゼロではないことは承知している。だが、サージェントは25歳となり、選手として最も脂が乗る時期を迎えている。かつてプレミアで苦しんだ若き日の彼とは違い、今は肉体的にも精神的にも成熟した「完成されたストライカー」だ。ヌーノの下で、明確な役割を与えられれば、彼は水を得た魚のようにピッチを躍動するだろう。
チーム全体が守備意識を高く保ち、奪ったボールを素早く前線へ送る。その到達点にサージェントがいる。競り勝ち、落としたボールをジャロッド・ボーウェンらが拾って一気にゴールへ迫る。そんな後半戦の勝ちパターンが、鮮明にイメージできるようになるはずだ。
個人的な見解
ヌーノ・エスピーリト・サント監督がジョシュ・サージェントを指名したという事実は、この指揮官がいかに現実を見ているかを証明している。
プレミアリーグという戦場において、勝ち点を拾うために何が必要かを熟知している。現在のウエストハムに足りないのは、前線での「時間」と「強度」だ。失われつつあるその活力を、サージェントという若く、飢えたタレントで補填しようという狙いは、あまりにも合理的で、かつ鋭い。
個人的には、この移籍はサージェントにとってもベストな選択だと感じる。彼の勤勉さは、ヌーノのような規律を重んじる監督の下でこそ最大化される。自由を与えられすぎて消えるタイプではなく、タスクを与えられて輝くタイプだからだ。
1750万ポンドという金額も、現代フットボールにおいては「ローリスク・ハイリターン」の範疇。もし彼がハマーズの前線で、かつてのラウール・ヒメネスのような輝きを放てば、この冬の移籍はクラブ史に残る会心の一撃となるはずだ。
