エメリが6000万ユーロで狙う「バスクの心臓」アスレティック・ビルバオMFミケル・ハウレギサール

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エメリが6000万ユーロで狙う「バスクの心臓」アスレティック・ビルバオMFミケル・ハウレギサール Aston Villa

2025年も残すところあと僅かとなり、英国特有の冷たい雨がピッチを叩く季節がやってきた。プレミアリーグの各クラブにとって、来る1月の移籍市場は後半戦の運命を左右する分水嶺となる。過密日程が選手たちの体力を削り取り、スカッドの厚みが順位表に直結するこの時期、バーミンガムの雄アストン・ヴィラが、極めて野心的な動きを見せている。

ウナイ・エメリ監督は、現状のチームに満足して胡座をかくような男ではない。チャンピオンズリーグ出場権を争うライバルたちを出し抜き、クラブを真のメガクラブへと押し上げるための起爆剤を求めている。

その白羽の矢が立ったのが、ラ・リーガのアスレティック・ビルバオで中盤の支配者として君臨する22歳MFミケル・ハウレギサール。スペインメディア『Fichajes』の報道によれば、ヴィラはこの若き司令塔に対し、少なくとも6000万ユーロという巨額の小切手を切る準備を進めている。

バスクで磨かれた「羅針盤」。エメリが6000万ユーロを投じる理由

2025/26シーズン、ミケル・ハウレギサールの評価は天井知らずの上昇を続けている。かつて「有望株」というレッテルを貼られていた若者は、今やサン・マメスのピッチで最も頼りになる男へと変貌を遂げた。ア

スレティック・ビルバオの下部組織「レサマ」の最高傑作の一人として数えられる彼は、バスクの選手特有の激しい闘争心を持ち合わせながら、同時に冷徹なまでの戦術眼でゲームをコントロールする。

現在のヴィラの中盤も強力だが、プレミアリーグのフィジカルバトルと欧州のテクニカルな戦いの両方を制するには、もう一枚、特別なピースが欠かせない。ハウレギサールは、相手のプレスを軽やかにいなすターン、長短を織り交ぜた正確無比なパス、そして守備への切り替えの速さにおいて、同世代のMFの中でも頭一つ抜けている。

彼のプレースタイルは、まさにエメリの戦術における理想となるダブルボランチの一角。アマドゥ・オナナやブバカル・カマラのようなフィジカルモンスターと組ませれば、ハウレギサールの配球能力はさらに輝きを増すだろうし、ユーリ・ティーレマンスと並べれば、相手守備陣を寸断するパスワークの中心となる。

競合相手の顔ぶれを見れば、彼の価値は一目瞭然。リヴァプールはかねてよりスカウトを派遣し、アルネ・スロット監督の志向するコントロールフットボールへの適性を評価していた。マンチェスター・シティもロドリの後継者問題に対する解答の一つとしてリストアップし、チェルシーもその才能に目を光らせている。

だが、これらメガクラブが冬の市場での大型投資を躊躇する隙を突き、アストン・ヴィラは「主役」の座を奪うべく、具体的な金額提示という行動に出た。6000万ユーロという数字は、ヴィラの本気度を証明するだけでなく、彼らがもはや選手の「育成」ではなく「即戦力」を求めていることの表れでもある。

サン・マメスの鉄壁を崩せるか。冬の市場に渦巻く駆け引きとリスク

しかし、資金を用意したからといって、アスレティック・ビルバオの扉が簡単に開くとは限らない。彼らは世界で最も交渉が難航するクラブだ。「バスク純血主義」という独自の哲学を貫く彼らにとって、市場で代わりの選手を獲得することは極めて困難であり、ゆえに主力選手の流出はクラブの存続に関わる重大事となる。

2024年の夏、ニコ・ウィリアムズを巡るバルセロナとの攻防戦を思い出してほしい。ビルバオは一歩も引かず、契約解除条項の満額支払い以外の一切の交渉を拒絶した。

今回のハウレギサールのケースも同様の展開が予想される。特にシーズン途中の1月移籍は、ビルバオにとって戦力ダウンを補填する時間がなく、受け入れがたい選択肢。6000万ユーロという提示額に対しても、首を縦に振るどころか、さらに高額な契約解除金の支払いを突きつける可能性がある。

ヴィラのスポーツディレクター、モンチの手腕が試されるのはここからだ。現金を積むという行為は前提に過ぎない。選手側の野心に訴えかけ、プレミアリーグという最高の舞台、そしてエメリという名将の下での成長を約束することで、内部から移籍への圧力を高める必要がある。ハウレギサール自身が「挑戦」を望めば、堅牢なバスクの要塞にも亀裂が入るかもしれない。

また、ヴィラはリスクヘッジも怠っていない。交渉が暗礁に乗り上げた場合に備え、アンデルレヒトの17歳の逸材ネイサン・デ・キャットといった若手有望株もリストアップしている。だが、即戦力として、そしてCL権争いを勝ち抜くための確実性として、ハウレギサールが最優先ターゲットである事実は変わらない。

1月の移籍市場が開くまであと数週間。水面下での駆け引きは既に沸点に達しつつある。アストン・ヴィラがこの冬、クラブの歴史に残る大型補強を敢行し、プレミアリーグの勢力図を塗り替えるのか。それともバスクの誇りがその野望を跳ね返すのか。我々は今、そのドラマの幕開けを目撃しようとしている。

個人的な見解

アストン・ヴィラが提示したとされる6000万ユーロという金額について、一部では「高すぎる」という声も聞かれるかもしれない。しかし、昨今の移籍市場におけるインフレ、そして何より「プレミアリーグ税」とも呼ぶべき上乗せを考慮すれば、ミケル・ハウレギサールへの投資は決して法外ではない。

むしろ、「ゲームを落ち着かせる能力」と「激しさ」のハイブリッドな才能は、現代フットボールにおいて最も希少価値が高い。22歳という年齢を考えれば、向こう10年間のヴィラの中盤を支える屋台骨を手に入れることと同義であり、長期的に見ればバーゲン価格になる可能性すら秘めている。

何より私が感銘を受けるのは、アストン・ヴィラというクラブが見せる「強者のメンタリティ」だ。数年前であれば、リヴァプールやシティが狙う選手に手を出そうなどとは考えもしなかっただろう。

だが、今の彼らは違う。エメリの指揮下で培った自信と実績が、クラブの格を一段階引き上げた。ビルバオという難攻不落の相手に対しても、正面から札束で殴り合いを挑むその姿勢こそが、彼らが本気で頂点を目指している。

ハウレギサールがヴィラのユニフォームに袖を通すことになれば、それはただの戦力補強にとどまらず、ヴィラが真のビッグクラブへと脱皮したことを世界に知らしめる決定的な瞬間となるだろう。