12月のマージーサイドに吹き付ける風よりも冷たく、そして鋭いニュースがスペインから届いた。アンフィールドの右翼を長年にわたって支配し、我々に数えきれないほどの歓喜をもたらした “エジプトの王” モハメド・サラー。
自らの去就を巡って欧州のメガクラブに売り込みをかけているという報道は、リバプールサポーターの心に重くのしかかる鉛のような現実。スペインメディア『Fichajes』が報じた内容は衝撃的だが、ピッチ上のパフォーマンスを冷静に見つめてきた者にとっては、ある種の必然性を感じる展開でもある。
崩れ落ちた聖域と2025/26シーズンの冷徹な数字
かつてモハメド・サラーという存在は、リバプールにとっての勝利の保証だった。2017年の加入以来、彼は右サイドから破壊的なスピードと決定力でゴールを量産し、プレミアリーグやチャンピオンズリーグのタイトルをアンフィールドにもたらした。
しかし、目の前に広がるデータは残酷なほどに彼の衰えを証明している。2025/26シーズンの公式戦19試合に出場し、わずか5ゴール3アシスト。かつての彼ならば、調子の悪い月でさえ軽くクリアしていたような数字を、シーズンの折り返し地点近くでようやく記録しているに過ぎない。
数字以上に深刻なのが、プレーの質の低下。相手サイドバックを置き去りにしていた爆発的な初速は影を潜め、1対1の局面でボールをロストする場面が散見される。かつては独自の「聖域」として機能していた右サイドが、今や攻撃の停滞を生むボトルネックと化している事実は否めない。
加えて、自身の現状に対する苛立ちを隠そうともせず、メディアに対して行ったとされる暴露的なインタビューは、アルネ・スロット監督率いるチームの結束に亀裂を入れる行為だった。
スロット監督は規律とハードワークを重んじる指揮官であり、プレス強度の低下とピッチ外での騒音を招くベテランを特別扱いする余裕はない。サラー自身もその空気を感じ取っているからこそ、居場所を失う前に欧州の他クラブへの移籍を模索し始めたのだろう。
バルセロナ、マドリード、バイエルンへの「逆オファー」に見る実現可能性と障壁
報道によれば、サラー側はバルセロナ、レアル・マドリード、バイエルン・ミュンヘンという欧州最高峰の3クラブに自らを売り込んだという。しかし、各クラブの事情を紐解くと、この「逆オファー」が成立する可能性は極めて低いと言わざるを得ない。
まずレアル・マドリード。フロレンティーノ・ペレス会長が推進する補強戦略は、キリアン・エムバペやヴィニシウス・ジュニオールを中心とした「若き才能の結集」にある。
30代半ばの選手を高額な年俸で迎え入れる余地は、今の白い巨人には存在しない。彼らの前線はすでに飽和状態にあり、将来性のないベテランをベンチに置くために大金を投じる愚行を犯すとは考えにくい。
次にバルセロナ。彼らの右サイドには、ラミン・ヤマルという絶対的な至宝が君臨している。クラブの未来そのものであるヤマルの成長を阻害してまで、ピークを過ぎたサラーを獲得する戦術的なメリットは皆無だ。
財政難に苦しむ彼らが補強に動くなら、手薄なストライカーのバックアップか左ウイングであり、右サイドのアタッカーは補強リストの末席にも載らないはず。
唯一、わずかな可能性を残すのがバイエルン・ミュンヘンだ。右サイドの主力であるマイケル・オリーセには、アーセナルやリバプール自身が関心を寄せているとの噂が絶えない。仮にオリーズがプレミアリーグへ引き抜かれる事態となれば、経験豊富な即戦力としてサラーに白羽の矢が立つシナリオはゼロではない。
しかし、ブンデスリーガの覇者もまた、激しいプレッシングとトランジションを信条としており、運動量の落ちたサラーがフィットするかは疑問符がつく。
結局のところ、サラーが望む「欧州トップレベルでのプレー継続」という願いは、彼の現在の実力と市場価値との間に大きな乖離を生んでいる。サウジ・プロフェッショナルリーグやMLSからの巨額オファーが、彼のキャリアの最終着地点として最も現実味を帯びているのが実情と言える。
個人的な見解
あえて厳しいことを言わせてもらえば、リバプールは今すぐモハメド・サラーという「過去の栄光」と決別すべき。スティーブン・ジェラードが去り、ユルゲン・クロップが去ったように、クラブは常に新陳代謝を繰り返して強くなる。
現在のサラーのパフォーマンスは、チーム全体のプレッシング強度を著しく低下させ、攻撃のテンポを遅らせる要因となっている。彼に支払われている莫大な給与は、次世代のスター候補への投資に回されるべきであり、功労者だからといって聖域化することは、クラブの未来を食いつぶす行為に他ならない。
もちろん、彼がアンフィールドに残した足跡が消えることはない。数々のゴール、あの興奮、タイトル獲得の瞬間の歓喜。それらは永遠に語り継がれる伝説。だが、伝説は伝説として美しいまま幕を引くべきだ。
自身の衰えを認められず、チームの和を乱し、泥沼のような移籍劇を演じて晩節を汚す姿など、誰も見たくはない。
もし欧州のトップクラブが彼を必要としないのであれば、彼を神として崇めてくれるサウジアラビアや、新たなアイコンを求めるアメリカで、王様としてキャリアを全うする方が、彼自身にとっても、そしてリバプールサポーターの記憶にとっても、幸福な結末となるはずだろう。
