北ロンドンの冬空の下、トッテナム・ホットスパー・スタジアムには冷徹な風が吹き荒れている。トーマス・フランク体制となって初めて迎える本格的な冬の到来だが、ピッチ上の寒さ以上に、サポーターの背筋を凍らせるニュースが飛び込んできた。
背番号 “37” ミッキー・ファン・デ・フェン。このオランダが生んだスピードスターは、フランク監督が構築する組織的なプレッシングサッカーにおいて、広大な背後のスペースをカバーする「生命線」として機能している。
だが、その絶対的なパフォーマンスが、皮肉にも世界最大の捕食者を呼び寄せてしまった。スペインの首都マドリードからの熱視線。そして今週、クラブのレジェンドが発した警告は、スパーズファンが抱く漠然とした不安を、避けては通れない現実的な恐怖へと変えてしまった。
グレン・ホドルが突きつける「契約拒否」の現実とレアル・マドリードの野心
「彼は新しい契約にはサインしないだろう」。かつての名手グレン・ホドルがメディアに放ったこの一言は、新体制下で結束を固めようとするスパーズに冷水を浴びせるものだった。ホドルは、現在のファン・デ・フェンが到達した領域を冷静かつ残酷に分析している。
トーマス・フランクの下で戦術的な規律を身につけ、さらに個の能力を研ぎ澄ませた彼は、もはやトッテナムという枠組みを超えた存在になりつつあるというのだ。「彼はどのビッグクラブでも主役になれる。マンチェスター・シティであれ、リヴァプールであれ、そしてレアル・マドリードであれ」。ホドルの言葉は、選手としての野心がクラブの格を凌駕し始めた瞬間を的確に捉えている。
この不穏な予言を裏付けるように、ジャーナリストのフレーザー・フレッチャー氏がもたらした情報は具体的かつ切迫している。レアル・マドリードは現在、ファン・デ・フェンを補強リストの最上位、すなわち「真のターゲット」として定めているそうだ。
白い巨人のスカウト陣を唸らせているのは、彼の代名詞である理不尽なまでの加速力だけではない。フランク監督が求める強度の高いデュエルにおいて、世界最高峰のフォワードたちを涼しい顔で封殺する対人能力、そして何より、プレッシャーのかかる局面で見せる「氷のような冷静さ」だ。
サンティアゴ・ベルナベウという、世界で最も重圧のかかるステージに立つ資格があるメンタリティを、マドリード側は完全に見抜いている。ダビド・アラバやアントニオ・リュディガーの後継者として、これほど完璧なピースは世界中を探しても見当たらないだろう。
トーマス・フランクの苦悩と2029年まで続く契約の攻防戦
スパーズにとって唯一にして最大の武器は2029年までの契約期間。ファン・デ・フェンとクラブの間には、2029年夏までの長期契約が残されている。通常、これは他クラブの介入を許さない鉄壁の防御となる。
レアル・マドリードといえども、彼を引き抜くには天文学的な移籍金を用意しなければならない。クラブ内部のソースも、彼はアンタッチャブルであると断言し、放出の意思など微塵もないことを強調している。
しかし、問題は選手の気持ちにある。トーマス・フランクという指揮官は、ブレントフォード時代から選手のモチベーション管理に定評があるが、レアル・マドリードからの招待状が届いた選手の心を繋ぎ止めるのは、いかなる名将にとっても至難の業。
フランクの戦術は、全員がハードワークし、連動することを前提としている。その中で、守備ラインの背後を一手に引き受けるファン・デ・フェンの役割は代替不可能。もし彼が移籍を志願し、モチベーションを低下させるようなことがあれば、フランクが積み上げてきた戦術そのものが根底から揺らぐことになる。
レアル・マドリード側はファン・デ・フェンを「プレミアリーグ屈指の選手」と評価しており、獲得に向けた本気度は極めて高い。彼らはスパーズが「売りたくない」と言えば言うほど、そのプライドを刺激され、より強烈なアプローチをかけてくるクラブだ。
冬の移籍市場、あるいは来たる夏のマーケットで、彼らは必ず具体的なアクションを起こすだろう。その時、トッテナムは契約書を盾にするだけでなく、スパーズでプレーし続けることの意義、すなわち勝利へのビジョンを彼に提示できるかが問われている。
個人的な見解
トーマス・フランク体制が軌道に乗り始めた矢先に、このようなニュースが飛び交うのは痛恨だが、これが現代フットボールの理だ。ミッキー・ファン・デ・フェンの才能は、明らかに特大であり、レアル・マドリードが関心を持つのは必然といえる。
グレン・ホドルの予言は、スパーズファンにとって耳を塞ぎたくなる内容だが、同時にクラブへの警鐘でもある。「ワールドクラスの選手を引き留めたければ、クラブ自体がワールドクラスであれ」というメッセージだ。
私自身の考えを述べさせてもらえば、今ファン・デ・フェンがマドリードへ行くのは時期尚早であり、リスクが高いと感じる。確かに白いユニフォームは魅力的だが、そこは一度のミスで批判の嵐に晒される過酷な戦場だ。
一方、現在のスパーズでは、彼は絶対的な信頼を得ており、トーマス・フランクの下でさらに守備者としての深みを増している最中。プレミアリーグという最高強度のリーグで、フランクの戦術を体現し続けることこそが、彼の完成度を極限まで高める近道だと確信している。
スパーズにはどんな金額を積まれても首を縦に振らない強さを見せてほしい。スパーズは「売るクラブ」ではなく「勝つクラブ」を目指しているはずだ。その証明のために、背番号37は何としても死守しなければならない。
この冬の攻防は、スパーズの未来を占う大きな試金石となるだろう。我々は固唾を呑んで、クラブの決断と、オランダの怪物の動向を見守ることになる。