ロンドンの街がクリスマスのイルミネーションで彩られる一方で、イースト・ロンドンの空には不穏な雲が垂れ込めている。プレミアリーグ2025-26シーズンも折り返し地点が見え始め、各クラブが後半戦への生存戦略を練るこの時期、ウェストハム・ユナイテッドが抱える守備の脆さは、もはや見て見ぬふりができない危険水域に達した。
ボクシング・デイを含む過酷な連を目前に控え、最終ラインの整備は急務。そんな中、英『Hammers News』が伝えた情報は、冷え切ったサポーターの心に灯る小さな、しかし確かな希望の光かもしれない。クラブは、現在フランス・リーグアンのトゥールーズでプレーするチャーリー・クレスウェルに白羽の矢を立て、1月の移籍市場での獲得を真剣に検討しているようだ。
リーグアンで研鑽を積んだ若武者がハマーズの「守備崩壊」を止める特効薬となるか
ウェストハム首脳陣はクレスウェルを、現在の守備問題を解決する理想的なソリューションと位置づけている。彼らの計画では、1月の移籍市場が開くと同時に速やかに交渉をまとめ、即戦力としてチームに組み込む算段だという。この動きの背景には、今シーズンのウェストハムが露呈し続けている、守備組織の構造的な欠陥がある。
昨夏、ジャン=クレール・トディボやマックス・キルマンといった実力者を迎え入れ、最終ラインの刷新を図ったはずのウェストハムだが、ピッチ上で起きている現実は理想とは程遠い。個々の能力は高くとも、ユニットとしての連動性に欠け、プレミアリーグ特有の理不尽なフィジカルバトルや、セットプレーの競り合いで後手に回るシーンが散見される。
華麗なパス回しやビルドアップ能力も重要だが、今のウェストハムに欠けているのは、自陣ゴール前で体を投げ出し、泥にまみれてでも失点を防ぐ闘争心だ。
そこで名前が挙がったのが、チャーリー・クレスウェルである。2024年の夏にリーズ・ユナイテッドを離れ、フランスの地で武者修行を続けてきたこの23歳のセンターバックは、イングランドの伝統的なディフェンダーの系譜を継ぐ選手だ。
190cmを超える恵まれた体躯を生かした空中戦の強さは言うに及ばず、相手フォワードに執拗に食らいつく対人守備の激しさは、リーグアンの舞台でも十分に通用することを証明してきた。フランスでの1年半は、彼に戦術的な柔軟性と、異文化の中で生き抜くタフネスを植え付けたはず。
技術重視のフランスリーグで揉まれた経験と、もともと持っていたイングランド仕込みの激しさ。このハイブリッドな能力こそが、今のウェストハムに欠けているパズルのピースとマッチしている。
FFPの足枷と高騰する市場価格 ウェストハムが「賢明な取引」へ舵を切る必然性
現代フットボールにおいて、補強戦略と財務状況は切り離して考えることはできない。特にPSR(収益性と持続可能性に関する規則)の監視が厳格化する中、ウェストハムのようなクラブがいかに効率的にスカッドを強化するかは、ピッチ上の戦術と同じくらい重要だ。この点においても、クレスウェルの獲得は理にかなっている。
冬の移籍市場は、往々にして売り手市場となり、足元を見られた法外な移籍金が飛び交う。パニックバイによって大金をドブに捨てるクラブも少なくない。しかし、ウェストハムは冷静。
フランスで一定の評価を得ているとはいえ、まだ世界的なスターダムにのし上がったわけではないクレスウェルであれば、適正価格での獲得が可能。しかも彼は「ホームグロウン選手」の資格を持つ。プレミアリーグの登録枠において、計算できるイングランド人選手を安価で確保できるメリットは計り知れない。
また、ウェストハムの守備陣に求められているのは、レギュラーを確約された絶対的なスターではなく、既存の主力であるトディボやキルマンを脅かし、彼らが欠場した際に質の落ちないバックアップを務められる存在。
あるいは、彼らの慢心を打ち砕くようなハングリーな競争相手である。クレスウェルはその役割にうってつけだ。彼はまだ若く、プレミアリーグでの成功に飢えている。リーズ時代やミルウォールへのローン時代に見せたキャプテンシーは、今の静かすぎるウェストハムの最終ラインに「声」をもたらすだろう。
安価で、若く、将来性があり、そして何より戦える。この条件を満たす選手は、今の市場を見渡してもそう多くはない。ウェストハムが彼をリストアップしたのは、偶然ではなく、徹底的なリサーチと現実的な計算に基づいた必然の動き。
1月1日の市場解禁に向け、水面下での動きはすでに始まっている。この取引が成立すれば、それは単に一人の選手が加わること以上の変化をチームにもたらすはず。
ウェストハムが必要としているのは、綺麗なサッカーではない。勝つためのサッカー、守り抜くための執念だ。クレスウェルという劇薬が、停滞するチームにどのような化学反応を起こすのか。ロンドン・スタジアムのサポーターは、新たなファイターの到着を固唾を呑んで待っている。
個人的な見解
今回のチャーリー・クレスウェル獲得報道に触れ、私はウェストハムの強化部に対して久しぶりに肯定的な評価を下したい気分だ。近年のウェストハムは、ネームバリューや派手な移籍金に踊らされ、チームのバランスを欠く補強を繰り返すきらいがあった。しかし、今回のターゲット選定は極めてロジカルであり、地に足がついている。
現在のウェストハム守備陣を見渡すと、確かにタレントは揃っている。だが、「誰が汚れ役をやるのか」という問いに対する答えが不在だ。失点シーンを見返せば、最後の最後で体を寄せきれない、あるいは競り合いを嫌がるような淡白なプレーが目につく。
クレスウェルは決して器用な選手ではないかもしれない。しかし、彼は「嫌な選手」になれる才能がある。相手FWにとって、常に背後から圧力をかけ続け、空中戦で執拗に体をぶつけてくるDFほど厄介な存在はない。彼がフランスで培った経験をそのままプレミアのピッチに持ち込めば、ウェストハムの守備強度は間違いなく一段階上がる。
コスト面でのリスクの低さも特筆すべきだ。もしフィットしなかったとしても、この年齢と国籍ならリセールバリューは維持できる。逆にフィットすれば、これ以上ないバーゲンとなる。冬の移籍市場でこのような堅実な手を打てるかどうかが、シーズン後半の浮沈を分ける。
ウェストハムは今、正しい選択をしようとしている。あとは、この交渉を迅速にまとめ上げる実行力がクラブにあるかどうかだ。1月早々、ロンドン・スタジアムで彼の泥臭いガッツポーズが見られることを、私は強く期待している。
