マージーサイドの凍てつく空気をさらに冷やすような、あるいは呆れて体温を上げてしまうようなニュースがボスポラス海峡の向こう側から届いた。冬の移籍市場、通称「パニック・バイ」の季節が近づくと、ゴシップ紙は活気づき、ありもしない夢物語を書き立てるのが常。
だが、今回ターゲットにされた名前はあまりにも巨大すぎる。リヴァプールの生ける伝説、モハメド・サラーだ。トルコの熱狂的な巨人が画策しているのは、ベテランの再就職支援ではない。欧州の第一線で戦うトップランカーに対する、常軌を逸したオファーの準備である。
イスタンブールから響く不協和音、ガラタサライの「歪な」提案
火元となっているのは、トルコ人ジャーナリストのアフメト・コナンチ氏によると、ガラタサライはモハメド・サラーの獲得に向け、ローン移籍という形態でリヴァプールに接近しているという。ここで眉をひそめるKOPも多いはずだ。なぜなら、その条件があまりにも一方的で、リヴァプールというクラブへの敬意を欠いているように映るからである。
報道の骨子はこうだ。ガラタサライはサラー個人に対し、現在のステータスを維持できるだけの巨額の給与を保証する。資金力に物を言わせるトルコの強豪らしい振る舞いだ。
しかし、対リヴァプールとなると話は別。彼らはあろうことか、「手数料なし」でのローン移籍に同意するよう、アンフィールドの首脳陣を説得しようと試みているらしい。つまり、世界最高峰のウインガーを、レンタル料を一銭も払わずに借り受けようという腹積もり。
この報道が事実であれば、ガラタサライの強化部はリヴァプールの現状認識を完全に見誤っている。あるいは、彼ら独自の「現実歪曲フィールド」の中に生きているのかもしれない。確かに近年、ス ペル・リグは欧州主要リーグで居場所を失いかけたスターたちの再生工場、あるいは豪華な隠居場所として機能してきた。
ナポリからヴィクター・オシムヘンをローンで引き抜いた際の手腕は記憶に新しい。あの成功体験が、彼らをさらなる大物釣りへと駆り立てているのだろう。だが、サラーは構想外になったストライカーでもなければ、怪我で評価を落としたベテランでもない。2025/26シーズンの今現在も、リヴァプールの右サイドで圧倒的な存在感を見せる現役の王だ。
ガラタサライ側の論理を推測するならば、33歳となったサラーの高額な年俸負担をリヴァプールが重荷に感じている、という勝手な仮説に基づいている可能性がある。「給与を肩代わりしてやるから、タダで貸せ」。
これは、戦力外通告を受けた選手に対するアプローチであり、タイトル争いの渦中にいるチームのエースに対する態度ではない。このオファー自体が、リヴァプールの野心に対する一種の侮辱と受け取られても仕方がない内容と言える。
アンフィールドの論理、FSGの計算式に「慈善事業」の文字はない
フェンウェイ・スポーツ・グループ(FSG)が、このふざけた提案に耳を傾ける道理がどこにあるか考えてみたい。リヴァプールの経営モデルは持続可能性と適正な価値評価に基づいている。もし仮に、チームの若返りを図るためにサラーの放出を決断する日が来たとしても、それはしかるべき対価を得て、次世代のタレント獲得資金に充当する場合に限られる。
サウジアラビアのクラブが提示するであろう天文学的な移籍金ならまだしも、一銭の得にもならない「手数料ゼロのローン」など、マイケル・エドワーズやリチャード・ヒューズといった強化担当者が鼻で笑ってシュレッダーにかける類の書類だ。
サラーは単なる戦力ではない。彼の存在は放映権料、マーチャンダイジング、そしてグローバルなブランド価値に直結する。彼がアンフィールドのピッチに立っているだけで生み出される経済効果は計り知れない。そのドル箱を、一時的にせよ無償で手放すなど、経営的な自殺行為に等しい。
また、サラー自身のキャリアプランとも合致しない。彼は依然として自身が世界最高の選手の一人であると信じて疑わないし、実際、そのパフォーマンスは錆びついていない。チャンピオンズリーグのアンセムを聞き、最高レベルのインテンシティの中で記録を塗り替え続けることこそが彼の燃料。
熱狂的なサポーターを持つとはいえ、欧州の辺境とも言えるリーグへの都落ちは、彼のプライドが許さないはずだ。もし彼がアンフィールドを去るときは、それは新たな挑戦のための完全移籍か、あるいは母国への凱旋に近い形での移籍だろう。
さらに言えば、今シーズンのリヴァプールのチーム状況を見ても、この移籍はあり得ない。過密日程を戦い抜き、プレミアリーグと欧州のタイトルを狙う上で、サラーの経験と決定力は不可欠なピースだ。
結局のところ、同氏が報じたこのニュースは、ガラタサライ側の願望が漏れ出したものに過ぎない可能性が高い。「オシムヘンが獲れたのだから、サラーもいけるのではないか」という二匹目のドジョウを狙う安直な発想。
しかし、リヴァプールとサラーの間に、外部が付け入るような隙間風は吹いていない。契約満了が迫る中での駆け引きはあるにせよ、それはあくまでトップレベル同士の高度な交渉であり、トルコからの救済を必要とするような段階にはないのだ。
個人的な見解
いちサッカージャーナリストとしての本音をぶつけさせてもらえば、この噂は近年の移籍報道の中でもトップクラスに「ナンセンス」だ。ガラタサライの野心そのものは否定しない。ビッグネームを欲するのはビッグクラブの性だ。しかし、リヴァプールという組織、そしてモハメド・サラーという個人の現在の立ち位置をあまりにも軽視している。
もしリヴァプールがサラーをローンで放出するような事態になれば、それはクラブが財政破綻の危機に瀕しているか、サラーがロッカールームで修復不可能なほどの造反劇を起こしたかのどちらかだ。アルネ・スロット監督との仲違いも報じられたが、両者は話し合いの末、サラーはチームに戻った。
百歩譲って、サラーが将来的にトルコでプレーする可能性がゼロではないとしても、それは今ではないし、この条件でもない。借り物として扱われるようなタマではないのだ。彼が動くときは、世界が驚愕するような巨額のマネーが動くか、あるいは彼自身が心を震わせるようなロマンを感じた時だけ。
手数料ゼロで説得できると考えている時点で、ガラタサライは交渉のテーブルにすら着けていない。このニュースは、冬の寒さを紛らわすための笑い話として消費するのが正しい作法だろう。リヴァプールサポーターは安心して、次の試合に集中すべきと断言する。
