ロンドン・スタジアムのピッチに、かつてのような「理不尽な暴力」とも言える推進力はもうない。ミカイル・アントニオという稀代の重戦車がチームを去ってから数ヶ月、ウェストハム・ユナイテッドは明確なアイデンティティ・クライシスに陥っている。
2025-26シーズンも12月中旬を迎え、冬の寒さが厳しさを増す中、ハマーズの前線はあまりにも軽量で、あまりにも淡白だ。ニクラス・フュルクルクら現有戦力が奮闘しているものの、プレミアリーグの荒波の中で「チーム全体を押し上げる」というかつてのエースが担っていたタスクを完遂できているとは言い難い。
そんな閉塞感を打ち破るべく、強化部がイタリア半島へ熱視線を送っている。ジェノアで孤軍奮闘するアンドレア・ピナモンティ。この26歳のストライカーこそが、ハマーズが失った前線の基準点を取り戻すためのラストピースとして浮上してきた。
CalcioMercatoが伝えるハマーズの決意とピナモンティの現在地
イタリアメディア『CalcioMercato』が報じた内容は、ウェストハムサポーターにとって待望のニュースだ。同メディアによれば、ウェストハムはジェノアに対し、1月の移籍市場が開くと同時にピナモンティ獲得へ向けた正式オファーを提示する構えを見せている。
アントニオ退団以降、ウェストハムの攻撃は明らかに迫力を欠いている。サイドからのクロスを入れても中央で収まらず、クリアボールを前線でキープして陣形を押し上げる時間も作れない。この悪循環を断ち切るために、クラブは即戦力の「9番」確保を最優先事項に掲げた。
ピナモンティは、今シーズンのセリエAにおいてもジェノアの前線で体を張り続けている。決して強豪とは言えないチーム状況下で、屈強なDFたちに囲まれながらもボールを隠し、味方の上がりを促し、そしてワンチャンスをモノにする決定力を見せつけている。
26歳となりフィジカルの成熟期を迎えた彼は、インテルやサッスオーロ時代よりも遥かに逞しくなった。ジェノア側の財政事情も絡み、適切な移籍金さえ提示されれば交渉はスムーズに進む公算が高い。ウェストハムにとって、これは単なる頭数合わせの補強ではない。失われた「前線の肉体的な優位性」を再び手にするための、戦略的な一手になり得る。
アントニオの幻影を振り払う「カルチョの仕事人」という回答
ミカイル・アントニオが去った後のウェストハムに最も欠けているのは、戦術を超越した「個の馬力」だ。今の前線は綺麗に崩そうとするあまり、相手守備陣に脅威を与える泥臭さが足りない。ピナモンティは、その欠落部分を補完できる稀有なタレントだ。
身長188cmの体躯はプレミアのセンターバックと対峙しても当たり負けせず、何より彼は背負った相手を無力化する術を心得ている。セリエAという、世界で最も守備戦術が発達し、ファウルギリギリのコンタクトが常態化しているリーグで磨かれたポストプレーは、イングランドの地でも間違いなく通用する。
かつてジャンルカ・スカマッカが適応に苦しんだ過去から、イタリア人ストライカーへの懸念を持つ声もある。だが、ピナモンティとスカマッカは似て非なる存在だ。ピナモンティは足元の技術に溺れることなく、ボックス内での競り合いや、ディフェンダーとの駆け引きを厭わない「仕事人」気質を持つ。
アントニオが持っていた、理不尽なまでの突進力とはタイプが異なるが、前線でボールを収め、チーム全体を前進させるという機能面においては、これ以上ない適任者と言えるだろう。
ヌーノ・エスピーリト・サント監督が目指す、ポゼッションとカウンターのハイブリッドな戦術を機能させるためにも、最前線で時間が作れる選手の存在は不可欠。ピナモンティが加入すれば、サイドのアタッカーたちはより高い位置でプレーできるようになり、中盤の選手たちは安心して前線へ飛び出していける。
もたらすのはゴール数だけではない。チーム全体の歯車を再び噛み合わせる潤滑油としての役割だ。アントニオという偉大な過去に囚われ続ける日々を終わらせ、新たな時代を築くために、このイタリアの弓矢が必要なのだ。
個人的な見解
アントニオ退団後の喪失感は、正直なところ想像以上に大きかった。彼がいなくなって初めて、あの「理不尽なフィジカル」がいかにウェストハムの戦術を支えていたかを痛感させられている日々だ。
今のチームには、行儀の良い選手は多いが、相手DFが嫌がるような「野性味」のある選手が圧倒的に足りない。だからこそ、アンドレア・ピナモンティの獲得報道には心が躍る。彼はエリート街道を歩んできた選手だが、プレーの端々には泥臭さとハングリーさが滲み出ているからだ。
ピナモンティは代役ではなく、後継者として、新しいウェストハムの攻撃の形を作れるポテンシャルがある。前線で身体を張り、泥にまみれてゴールをこじ開ける姿を見せれば、ロンドン・スタジアムのサポーターはすぐに彼を愛するはず。
スマートなサッカーだけでは勝てないのがプレミアリーグだ。冬の移籍市場でこの「戦える男」を確保できるかどうか。それが、今シーズンの最終順位、ひいてはクラブの未来を左右する分岐点になると私は確信している。
