2025年も残すところあとわずかとなり、フットボールシーンは冬の喧騒と来夏のプランニングが交錯する時期に突入した。ピッチ上の熱戦とは裏腹に、水面下ではすでに激しい駆け引きが始まっている。
今、プレミアリーグのスカウトたちがこぞって視線を送る先はオランダのアルクマール。エールディヴィジの名門AZアルクマールが手塩にかけて育て上げた19歳MFケース・スミット。この若きミッドフィルダーの才能は、もはやオランダ国内の枠には収まりきらない。
海外メディア『i News』の報道によれば、チェルシー、マンチェスター・ユナイテッド、ニューカッスル・ユナイテッド、そしてトッテナム・ホットスパーが獲得レースに名乗りを上げている。だが、資金力と速攻に定評のあるブルーズが、またしてもライバルたちを出し抜こうとしている。
ロンドンの青が先行する理由と「2500万ポンド」の攻防
AZアルクマールのユースアカデミーは、近年稀に見る豊作続きだ。その中でもケース・スミットの輝きは群を抜く。ハイロー生まれのこの19歳は、トップチームですでに50試合以上のキャップを刻み、4ゴール7アシストという数字を残している。
中盤の底からゲームを組み立てるだけでなく、バイタルエリアへ侵入して決定的な仕事をするそのプレースタイルは、現代フットボールがミッドフィルダーに求める万能性を体現している。
この逸材に対し、最も具体的な動きを見せているのがチェルシー。エンツォ・マレスカ監督の戦術眼は、現在のスカッドに満足していない。エンツォ・フェルナンデスやモイセス・カイセドというワールドクラスを擁しながらも、マレスカはさらなる中盤のオプション、特に攻撃のスイッチを入れることができる若き才能を欲している。
すでにチェルシーのフロントはスミットの代理人サイドと接触し、対話のテーブルに着いているという情報がある。既にリストアップの段階を超え、獲得に向けた具体的なプロセスが進行していると言って良いだろう。
AZ側が設定した移籍金は2500万ポンド。プレミアリーグの放映権料バブルを考えれば、決して高すぎるハードルではない。むしろ、数年後に彼が市場価値を数倍に跳ね上げる可能性を考慮すれば、この投資は極めて合理的。
チェルシーはこの価格帯の若手獲得において他クラブを圧倒するスピード感を持っており、スミット陣営との初期段階の合意形成において、一歩も二歩もリードしている現実は揺るがない。
だが、スミットにとってチェルシー行きが最適解かどうかは議論の余地がある。スタンフォード・ブリッジの選手層は厚く、激しいポジション争いが待ち受けている。それでも彼らが獲得に動くのは、ライバルクラブへの戦力供給の阻止という側面も否定できないだろう。
崖っぷちのユナイテッドとスパーズ、それぞれの切実な台所事情
チェルシーが「贅沢な補強」であるのに対し、追走するライバルたちにとってスミットの獲得は「生存戦略」に近い。特にマンチェスター・ユナイテッドの苦悩は深い。カゼミーロのパフォーマンス低下は顕著であり、彼の長期的な後継者問題は避けて通れない課題となっている。
さらに誤算だったのは、2024年にパリ・サンジェルマンから鳴り物入りで加入したマヌエル・ウガルテの適応不足だ。加入から1年半が経過してもなお、彼はプレミアリーグのスピードと強度に苦戦しており、オールド・トラッフォードの要求水準を満たせていない。
コビー・メイヌーという希望の光はあるものの、ルベン・アモリム体制では出番を得られておらず、その去就もまたゴシップの種になっている。だからこそ、若くしてエールディヴィジで実績を積んだスミットのような、即戦力かつ将来性のあるMFが必要不可欠なのだ。
トッテナム・ホットスパーもまた、中盤の刷新を迫られている。トーマス・フランク監督の下で主力として稼働してきたイヴ・ビスマだが、クラブは来夏での売却を決断したようだ。規律面での問題やパフォーマンスの波が、信頼を完全に勝ち取る妨げとなった。スミットの技術と戦術理解度は、フランク・ボールにスムーズに適合するはず。
ニューカッスル・ユナイテッドも同様に、サンドロ・トナーリとブルーノ・ギマランイスの負担を軽減できる存在を探し求めている。中盤のマルチロールであるスミットは、エディ・ハウ監督にとって喉から手が出るほど欲しいピースに違いない。
だが、現時点でのポールポジションは間違いなくチェルシーだ。彼らの「対話」というアドバンテージを覆すには、他クラブはより魅力的なプロジェクトと、何より確実な出場機会を提示する必要がある。
スミット自身が、煌びやかなロンドンの青を選ぶのか、それとも再建の柱として自分を必要としてくれるクラブを選ぶのか。その決断は、来シーズンのプレミアリーグの勢力図に小さくない影響を与えるはずだ。
個人的な見解
19歳の若者が2500万ポンドという巨額のマネーゲームの中心にいる現実は、現代フットボールの異常な過熱ぶりを示している。だが、ケース・スミットのプレー映像を見れば、その狂騒も理解できる。
彼のボールタッチには、かつてのオランダの名手たちが持っていた特有の優雅さと、現代的なアスリート能力が同居している。AZアルクマールというクラブは、以前からトゥーン・コープマイネルスやタイアニ・ラインデルスといった優れたMFを輩出してきた実績がある。この系譜を継ぐスミットが、イングランドで成功する下地は十分にある。
しかし、一人のジャーナリストとして警鐘を鳴らしたいのは、チェルシーという選択肢のリスクだ。マレスカ監督の手腕は確かだが、チェルシーの保有選手リストはあまりに膨大すぎる。
過去にどれだけの才能が、ローン移籍の繰り返しによってキャリアの道筋を見失ったか。もしスミットが賢明な判断をするなら、中盤の底が崩壊しかけているマンチェスター・ユナイテッドや、ビスマの退団で枠が空くトッテナムの方が、自身の成長にとって健全な環境だと考えるべきだ。
特にスパーズのような、明確に中盤のタスクが整理されたチームであれば、彼のパスセンスは即座に輝きを放つだろう。選手のキャリアは選択の連続。代理人やクラブ間の金銭的な都合ではなく、純粋なフットボール的な観点で、彼が最良の決断を下すことを願ってやまない。
